第2章 カルマ、傭兵を雇う 

 

第3節 青年との対戦その3


やられた。
第1戦で切り札を見せたことが今回の敗北につながってしまった。
後悔の念が再びカルマにのしかかる。
だが、今はそれにとらわれている場合ではない。
後悔などしても仕方ない。反省なら対戦が終わったあとでゆっくりとやればいい。
大事なのは同じ過ちを再び繰り返さぬこと。
1つ深呼吸をして気持ちを切り替える。

今回わかったことが2つ有る。
まず第1に、切り札の存在。
青年の呪文書に含まれる<疫病風>と<ファイレクシアの処理装置>の存在だ。
茶単のマナ加速を用いているのだから他に何か有るかもしれない。
その可能性は十分に考えられる。
だが、どんな呪符を使っているのかわかれば手札を予想することも容易になる。
もう一つは赤の呪符がそう多くは含まれていないだろうということだ。
マナに余裕が無かったと言うことも考えられるが、それならなおさらマナコストの小さな赤の呪符を警戒する必要は無いことがわかる。
それに、まだ赤の呪符は使われていないのだ。
それよりも目に見える脅威を排除することに力を注ぐべきだろう。
<ファイレクシアの処理装置>に対抗する手段はカルマの呪文書には含まれていない。
<疫病風>も打たれてしまえばもう一度最初からやり直しだ。
使われる前に勝つしかない。
マナがそろわない序盤が勝負を分けることになる。


青年 手札7枚 ライフ20
無し
カルマ 手札7枚 ライフ20
無し

「古の契約に従い、先攻で行きます」
カルマも青年も、呪文書から7枚の呪符を得る。

──序盤だ。ここでもたつけばやられる。頼む。

祈るように引いた7枚の呪符は・・・最高ではないにしても、何とかなると思わせるに十分な手札だった。
口元を笑みをうかべ、同時に軽く引き締める。
──むこうはどうだ?
そう思い、青年の方をみたときには既にこちらをじっとみていた。
まるでこちらの手の内を読みとろうとするかのように。

少ない情報を、それでもできるだけ集めようと努力することは決して無駄にはならない。
相手の手札を読みとる材料は、場に出てきた呪符だけにとどまらないのだ。
呪符を使うのは人。
ならばそれには感情や思惑が有って当然だし、実際にそこから読みとれる情報にも、多くのものが含まれているはずだ。
青年はそれを知っており、なお活用する努力を怠っていなかったわけである。

──やられるわけだ。

カルマが苦笑すると同時に、青年の顔にも笑みが浮かぶ。
今やそのポーカーフェイスは青年の最大の武器の1つだった。

「沼気よどむ沼よ、我が下に」
いつものように沼を支配する。そして、
「我、汝を<強迫>せん!」
待望の手札破壊を青年に向かって放つ。
ウルザの時代が訪れてのち、常にカルマとこの呪符は共にあった。
そして何度も助けられている。期待を裏切られることは少ない。
──さぁ、未来を見せてもらうよ。
青年の手札がさらされる。そこにあったのは、

沼 沼 キー 発電器 スカージ 抹殺者 処理装置

の7枚。
躊躇無くファイレクシアの処理装置を捨てさせる。
本来ならば発電器や通電式キーなどを捨てさせてマナを圧迫させるべきかもしれない。
茶単を相手にしているなら当然の手筋の1つだ。
しかし、どうしても処理装置だけは見逃したくない。
──勝ち手段を封じられて負けちまうのはつまんねぇからな──
アルフレッドの声が頭の中に響く。
スカージも抹殺者も何とかなる。だが、処理装置だけはどうにもなりそうもなかった。
青年の勝ち手段を封じておくことに主眼をおいたのである。

青年 手札6枚 ライフ20
無し
カルマ 手札5枚 ライフ20

青年は沼を支配し、通電式キーを場に出す。
そこで終了。
先ほど見た手札から予想されうる動きではあった。

青年 手札5枚 ライフ20
 キー
カルマ 手札5枚 ライフ20

青年の引いた1枚の呪符が気にかかる。
しかしさらに強迫を打ち込むことはできなかった。

「輝ける<水晶鉱脈>よ。そのマナを放て」
新たに水晶鉱脈を支配下に入れ、同時に全てのマナを引き出す。
水晶鉱脈はもろくも崩れ去った。
「来い、<カテラン組合の粗暴者>よ」
そこから傭兵を呼び出す。
威嚇者のように相手のクリーチャーをすり抜けていく能力があるわけではないが、傭兵を呼び出す能力は威嚇者と同等。タフネスに至っては若干とはいえ上である。
そして黒マナの必要量が低いため今回のように水晶鉱脈を生け贄にして呼び出すこともできる。
暗黒の儀式が手札に来ないときにでも傭兵を1ターン早く呼び出せる。その体制を整えるように導入しておいたクリーチャーであった。

青年 手札5枚 ライフ20
 キー
カルマ 手札4枚 ライフ20
 粗暴者

青年がさらに呪符を引く。
これでわからない呪符が2枚。その3分の1がわからない呪符だ。
しかしファイレクシアの処理装置はない。無いと思いたい。
他にどんな呪符を引いているかしれないが、処理装置以上にやっかいなものはそうはないはず。
カルマはそう考えていた。

青年が場をじっとみる。
1つ嘆息したあともう1枚の沼を支配し、手の内から走り回るスカージを出して終了する。

青年 手札4枚 ライフ20
沼 沼 スカージ キー
カルマ 手札4枚 ライフ20
 粗暴者

カルマが呪符引くと同時に、青年はまた1つため息をついて見せた。
「どうした?」
「あ、すみません。何でもありません」
青年はそれでさらにもう一つため息をつく。
「いや、何かあったようだけど」
「いやぁ。傭兵が出てきて、また抹殺者が使えなくなったもので。処理装置も捨てさせられちゃいましたし、頼りはこいつだけですから」
と、スカージを見上げて一人ごちた。

場には傭兵が出ている。抹殺者は使えなくなった。処理装置もない。
青年は嘘は言っていない。確かにこのままならスカージが頼みの綱になるはずだった。
ならば・・・
「沼よ、さらに集え。
 そしてスカージよ。<不純な飢え>を覚えよ」
・・・それすらも封じてしまおうとカルマはスカージに除去呪文を打ち込む。
スカージが地に落ちた。
だが、それをみて青年は残念がるどころか笑みを浮かべる。
「わざわざ除去してくれたんですか? ありがとうございます。てっきりハーピーまで繋げるものだと思ってました」

言われて、カルマは気づく。
傭兵を展開して封じられるのは何も抹殺者だけではない。
スカージも同時に封じられるのだ。
それにスカージが場にいると次のターンで抹殺者を呼び出す妨げになってしまう。
おまけにここでマナを使わせることによって展開を1ターン分遅らせることができる。
それは抹殺者で攻撃するタイミングを1ターン余分に稼げることになる。
抹殺者での1回の攻撃。それはスカージが攻撃した1回分と不純な飢えで得た生命力の両方を合わせた量とちょうど釣り合いがとれる量なのだ。
カルマが呪符を使った分だけ不利になったともいえる。

一体どこまで青年の台詞回しに翻弄させられればよいのか。

マナの無くなったカルマは粗暴者を攻撃に送り出し、青年のライフを削ったのち、終了を宣言した。

青年 手札4枚 ライフ18
沼 沼 キー
カルマ 手札3枚 ライフ22
沼 沼 粗暴者

青年が新たな呪符を手に入れる。
新しく沼を支配下に入れた後、ファイレクシアの抹殺者を召喚してきた。
「3戦とも出てくるとは。よほど相性が良いんだな」
「どうでしょう? いくら相性が良くても今回は傭兵に封じられていますからね。いいとばかりはいえないみたいですよ」
そういって手番を終了する。

だが、いくら封じられていると言ってもこのまま済むとは思えなかった。
今、青年の手札でわかっているのはスランの発電器ただ一つ。
次のターンに新しい土地を支配すれば作り出せる。
すると、通電式キーと合わせちょうど9マナが出せるようになる。ということは──

時間が欲しかった。

青年 手札3枚 ライフ18
沼 沼 沼 抹殺者 キー
カルマ 手札3枚 ライフ22
沼 沼 粗暴者

何もせずに手番を終了する
抹殺者を封じるために少しでも早く傭兵を展開させる必要があった。
だが、そのために欲しかった土地を、今回は引けなかった。

青年 手札3枚 ライフ18
沼 沼 沼 抹殺者 キー
カルマ 手札4枚 ライフ22
沼 沼 粗暴者

青年が新たな呪符を引く。
そして。
新たな土地は出てこなかった。

「土地引かなかったみたいだな」
「ええ。少し残念ですけどね」
そういって青年はしかし、引いた呪符を手の内に納めなかった。
「だけど、これを引きましたよ。
 我は導く、<暗黒の儀式>」
沼からマナを引き出し、増幅させる。
(自分の思い通りになるほど甘くはなかったか)
スランの発電器を作り出し、そこから得たマナを使い、キーで発電器を起こす。
残りの2マナで<火薬樽>を作り出した。
<火薬樽>
効果が発揮するまでに少なくない時間がかかるが、その効果はクリーチャーとアーティファクトの両方に襲いかかる。
一定のマナ量を使うそれらに無差別に影響を与えるため、使いにくいと思うかもしれないが決してそんなことはない。
効果の発動は火薬樽を使っている方に決定権があるのだ。タイミングははかれる。
つまり、相手の方に影響が大きいときに使えば良いのである。
さらにこの呪符はクリーチャーやアーティファクトに対抗できない色──特に青や黒など──の弱点を埋めてくれる。
複数の呪符に効果を及ぼす呪符は強い。
魔術を志すものにとって、常識ともいえるその鉄則を、この呪符はそのまま体現していた。

それでもカルマは自分のやることはこれだとばかりに粗暴者から説得者を呼び出した。

青年 手札1枚 ライフ18
沼 沼 沼 抹殺者 発電器 キー 樽(0個)
カルマ 手札4枚 ライフ22
沼 沼 粗暴者 説得者

待望の沼を引く。
それを場にだし、終了。
ここで攻撃しても素通しさせられる。数点の生命力を削るより、さらなる傭兵を呼びだしてプレッシャーをあたえる方が良いだろう。
火薬樽が気になるが、いつまでも残っているより景気よく使わせてしまった方が良い。
どうせ防ぐ手段はないのだ。

青年 手札1枚 ライフ18
沼 沼 沼 抹殺者 発電器 キー 樽(0個)
カルマ 手札4枚 ライフ22
沼 沼 沼 粗暴者 説得者

火薬樽の導火線に火がつく。いよいよその力を蓄え始めていた。

「火薬樽が気になるようですが、それにばかり気を取られていては困ります」
そう言いつつ、発電器、通電式キー、2つの沼からマナが引き出される。
「立て、<ファイレクシアの巨像>よ。 其を妨げしものは無し。
 我、血をもってその力に報いる。 ただただ求め進がよい」
青年の前に巨大な像が呼び出される。
<ファイレクシアの巨像>
現存するものの中でも最大級の大きさを持つ超巨大クリーチャーである。
これを防ぐには1体では言うに及ばず、2体でも足りない。
最低でも3体。
この巨像の進撃を止めるのは最低でもそれだけの数が必要だ。
そしてその巨体に見合った蹂躙の能力。
クリーチャーでのブロックでこれを押しとどめるのは至難の業であった。
しかしやはり弱点が存在する。
このクリーチャーは通常の方法で起きあがることができないのだ。
再び力を取り戻すためには術者の血を要求する。
しかも半端な量ではない。その量は初期生命力の40%に相当するのだ。
生半可な覚悟で使えるものではない。普通ならば自滅ととられてもおかしくない。
だが、見落としてはならないことがある。
青年の場には通電式キーがあり、そしてこの巨像は魔法道具なのである。

──やはり発電器を捨てさせるべきだったか。
そんな思いがカルマの頭に渦巻くが、やはり後悔しても仕方のないこと。
目の前の脅威に全力で対処することが先決だ。
青年の終了時にカルマは説得者と塁壁を這うものを呼び出した。

青年 手札1枚 ライフ18
沼 沼 沼 抹殺者 巨像 発電器 キー 樽(1個)
カルマ 手札4枚 ライフ22
沼 沼 沼 粗暴者 説得者 説得者 這うもの

全ての力を取り戻した後、カルマは沼2つからマナを引き出し、抹殺者に不純な飢えを打ち込む。
あの手札がなんなのかわからないが、9マナを許すわけにはいかない。
抹殺者が生け贄を要求する。
青年は少し考えたあと、沼を2つ生け贄とした。
──もう土地からのマナは必要ないと言うことか
それともたくさん入っているからいずれ引くと考えているのか。
どちらにしてもこれで『風』を心配することはなくなった。
と同時に、青年の残り1枚の手札がそれではなかったと予想することもできる。
もしもそうなら、おそらく抹殺者と火薬樽を生け贄として、次の土地引きに賭けていただろうからだ。

青年 手札1枚 ライフ18
沼 抹殺者 巨像 発電器 キー 樽(1個)
カルマ 手札4枚 ライフ24
沼 沼 沼 粗暴者 説得者 説得者 這うもの

さらに火薬樽に力を蓄える。
今その影響にあるのはカテラン組合の説得者が2体。
さっきは塁壁を這うものと通電式キーがその影響下にあった。
自らの通電式キーすらも巻き込んでしまい、しかもあまり脅威とならない這うものを除去するよりも、明らかに今の方が有利だ。力を加えるのは当然といえた。

続いて呪符を得た後、すぐに場に出す。沼だ。
そこからと発電器からマナを引き出すと、残り1枚の手札すらも使ってしまう。
「満ちよ、マナ。結晶せよ、力。
 命有るものにその力分け与えよ。<パワーマトリックス>」
力強く輝き放つ結晶が、青年の手の中に生まれる。
<パワーマトリックス>
クリーチャーの能力にはいろいろあるが、その力を最大限まで引き出すことを目的として作り出された魔導道具だ。
この魔法道具からの力を受け取ったクリーチャーは、普段よりも素早くなり、力強くなり、空をも飛ぶという。

「攻撃!」
青年が抹殺者と巨像に進撃を命じる。
マトリクスに守られているこの巨大クリーチャーに対抗する手段はカルマにはなかった。
しかし、ただやられるつもりはない。
ただ一つ残る沼からマナを引き出す。
「我、血をもって其に報いるものなり。<血の復讐>により、汝、求めたる其の重さをしれ」
掲げた呪符に生命力が吸い取られていく。
「それなら。パワーマトリクスによって巨像の力を増大させます」
決して少なくない、逆に言えば多量の生命力をつぎ込んで完成させたその呪符により、ファイレクシアの巨像はカルマにその力をふるうまでもなく動きを止めていた。
青年がマトリックスの力を使ったため、予想よりも少し多い生命力が必要となったが、予想の範囲を出るものではない。

「まだ抹殺者がいますよ」
わかっている。しかし、マトリックスは使ってしまった。抹殺者だけなら怖くはない。
「全軍、ファイレクシアの抹殺者を──」
そこで気づく。
マトリックスの力は、まだ完全には失われてはいないことに。
「抹殺者を・・・何ですか?」
聞き返してくる青年に応えず、カルマは少し息を整えていた。
「危なかったよ。もう少しで引っかかるところだった」
そういって、ブロッククリーチャーを引き戻す。
「あ、ばれちゃいました?」
後ろ手に隠し持っていた通電式キーを使い、パワーマトリックスの力を回復させる。
「うまくいったと思ったんですけどね」
傭兵達の横を堂々と突き進んできた抹殺者はいつもよりも派手にカルマを吹き飛ばしていった。

青年 手札0枚 ライフ18
沼 沼 抹殺者 マトリックス 発電器 キー 樽(2個)
カルマ 手札3枚 ライフ09
沼 沼 沼 粗暴者 説得者 説得者 這うもの

時間がない。
抹殺者にパワーマトリックスが有る限り、青年は恐れることなく抹殺者を攻撃に使うだろう。
それに火薬樽がある。新しい傭兵を呼びだしてもその影響で半分も役に立たない。
それに頼みのショークーの工作員を完全に標的にされていると言っていいだろう。
クリーチャーの数がそろわなければ暗黒の凱歌も無意味だ。

──頼むっ

祈るような気持ちで引いたそれに、カルマは息をのむ。
場の状況は・・・?
手札は・・・?
確認する。

「何かいいもの引いたみたいですね?」
一瞬気を取られていた瞬間を青年に見られていた。
どうやら隠し事は出来ないらしい。
「それはどうかな?」
だが、今更ながらにとぼけてみる。見え見えなのはわかっていた。
「今度は何が出て来るんですか?」
「さてね」
そう言いながら、カルマは説得者から這うものを呼び出していた。

「全軍攻撃!」
力を使ってしまった説得者と、今呼び出したばかりの這うもの以外の3体で攻撃をする。
傭兵を呼ぶことも出来たが、火薬樽がある。それに抹殺者を止める方法がない。
もはやクリーチャーでどうこうというレベルではなくなってきているのだ。
ブロックできないなら攻撃あるのみだ。
「火薬樽を起動させます」
青年は火薬樽を起動させる。粗暴者から工作員が呼び出される心配もなくなり、逆に次のターンで暗黒の凱歌を使われても負けないように、ライフの保持を優先させたのだろう。
手の中から召還されると言う危険性もあるが、次のターンで火薬樽に巻きこまれるクリーチャーを使って暗黒の凱歌を使われては、そのまま負けてしまうのだ。
火薬樽の影響を免れた2体が青年の体に傷を付ける。

「来い、<換羽するハーピー>よ」
手の中からハーピーを召還する。
そして、少し考える。
「それだけで終わりですか?」
何もしないカルマに、青年は問いかけてくる。
このまま終わりなら、次のターン、暗黒の凱歌で与えられる最大ダメージでも自分をたおすには今一歩及ばない。青年はそのことを言っているのだ。
「いや、まだだよ」
残り1枚の沼からマナを引き出し、手の中から1枚の呪符を取り出した。
「我は重ねる、<暗黒の儀式>」
黒マナを増幅させる。
そして──

「沼よ 沼よ 死を飲み込み力を放て
 我 <あまたの生け贄>を捧げ其にむくいるものなり」

──カルマの呪符の中で最も危険な切り札、<あまたの生け贄>の力を解放させる。
<あまたの生け贄>
呪符として完成したときに、4体ものクリーチャーを生け贄に要求する、危険性の高い全体魔力付与呪文である。
だが、その効力は絶対的であった。
この呪符の影響下では術者の支配する沼が力を持ち、クリーチャーだけではなく相手本人にまでダメージをあたえ始める。
その1つ1つは最小のものであるとはいえ、数が集まれば大変な脅威となる。
もしもあまたの生け贄を除去できないならば、標的にされるクリーチャーが生き残ることはできず、対戦相手すらもその脅威にさらされ、数ターンとたたずに敗北へと追いやることができる。
特に黒や赤は魔力賦与呪文を除去する方法を持っていない。
<汚染>と同様に、相手を選ぶとはいえ決まれば逆転すら望める、カルマが持つ切り札の、その最後の1つであった。

「沼気よどむ沼よ、我が下に集え
 そして、あまたの生け贄により、沼よ、ファイレクシアの抹殺者を撃て!」
全てが終わった後、さらに沼を支配下に入れたカルマは、抹殺者に向かってその力をふるう。
抹殺者が生け贄を要求する。
青年は黙って沼を捧げた。

その顔からは、笑みが消えていた。

青年 手札0枚 ライフ15
沼 抹殺者 マトリックス 発電器 キー
カルマ 手札0枚 ライフ09
沼 沼 沼 沼 生け贄

「いけ! ファイレクシアの抹殺者!」
無人の荒野に、抹殺者が駆ける。
そしてその腕がカルマをとらえた。
「マトリックスよ、力を放て!」
通電式キーの能力まで使い、ファイレクシアの抹殺者を強化する。
並々ならぬ力でカルマの体を吹き飛ばす抹殺者。
しかしそれでもカルマの生命力を削りきるのには足りなかった。
ただし、次はとても耐えきれそうもない。

「あなたの場にはマナ源が4つ。手札が0。
 ここから逆転できる呪符、果たしてその呪文書の中にありますか?」
ファイレクシアの抹殺者を引き戻したあと、青年は手番を終了させた。

青年 手札1枚 ライフ15
沼 抹殺者 マトリックス 発電器 キー
カルマ 手札0枚 ライフ02
沼 沼 沼 沼 生け贄

カルマは全ての沼の力を取り戻したあと、呪文書に手を伸ばす。
新しい呪符に手をかけ、めくった。
そこには・・・

はぁ。
軽く口を開き、ため息をつく。
しかしそのあと、何か気がついたように場と手札を確認し、ちらりと青年を伺った。
何か良い呪符を引いた。
そう見せかけなくてはならないことに気がついた。
しかし、青年の顔には再び笑みが浮かんでいた。
何もかもお見通しだと言うように。
「何か、引けました?」
「・・・・・・さてね」
さっきと同じようにこたえる。
感づかれてはならない。
今、ここで必要なのは呪符の使い方のうまさでもなく、呪文書の作り方の知識でもなく、相手の裏をかくブラフの能力だった。

今手に入れた呪符を握りしめたまま、カルマはあまたの生け贄の力を解放していく。
「沼よ 抹殺者を撃て!」
その身に傷を受け、抹殺者が青年に代価を要求する。
しかしそれに応えず、青年はじっとカルマの顔を見ていた。
視線が交錯する。
感づかれてはならない。
何か良い呪符を引いたのだと見せかけなくてはならない。
そうわかっていながら、カルマはつい視線を逸らしてしまった。

「抹殺者よ、パワーマトリクスを生け贄に捧げる。今少しこの場にとどまれ」
あまたの生け贄がある状況で、おそらく青年のクリーチャーはそのほとんどが生き残ることはできない。
しかし、赤の呪符がある。まだ逆転のチャンスはある。
抹殺者で生け贄に捧げることなく、場の状況をこのまま固定化しておけば、可能性は少ないまでも、火力呪文でとどめも刺せる。
もしも抹殺者以外のものを生け贄に捧げ、さらに抹殺者までも除去されてしまえば、もはや敗北しかない。もちろんそれはわかっているだろう。
だが、青年は抹殺者を生け贄に捧げることはしなかった。
カルマは逆転の呪符を引いていない。
持っていると見せかけ、抹殺者を生け贄に捧げさせること。それが真のねらいにちがいない。
そう確信してパワーマトリックスを生け贄にしてきた。

カルマは軽く笑みを浮かべる。
抹殺者で場のものを生け贄に捧げさせるのが真のねらいだ。
本当は逆転の呪符を引いているのだ。
そういうかのように。
だが、逆に言えばこの状況でそういった表情を浮かべる方が不自然である。
自分の意図はできる限りかくしておきたいのが人情だ。
ならばやはり抹殺者を生け贄にさせるのが狙いのはず。
青年はカルマの真の意図を見切っていた。

「沼よ、抹殺者を撃て!」
さらに追い打ちをかける。
ここが分岐点だ。
ここでマナ源を生け贄に捧げ、抹殺者でとどめをさすか、可能性は低いが赤の火力呪文での最後の一撃に期待するか。
もしもカルマが逆転の呪符を引いているなら抹殺者を残しても無意味。自殺行為である。
逆に逆転の呪符を持っていないならば、これ以後青年のほとんどの呪符は封じられ、一縷の望みを火力に賭けるしかない。勝ちを逃してしまうことになる。
「通電式キーを生け贄に」
しかし青年は動じること無く通電式キーを捧げた。
やはりカルマの手に逆転の呪符はないと確信しているようだった。

「沼よ!」
「発電器を生け贄に」
「沼よ!!」
「沼を生け贄に捧げます」

ついに青年の場には抹殺者しかいなくなってしまう。
しかしカルマの場にも、あまたの生け贄以外には力を失った沼が4つ有るだけ。
勝負は決した。
「危なかったですよ。いい勝負でした」
そういって、肩の力を抜く。

だが──青年は気づいていなかった。
絶体絶命のここから逆転する呪符。
それはカルマの呪文書の中でもっとも基本的な、故にもっとも強力な呪符だということに。

「沼よ! 沼よ!!」
最後の呪符を掲げ、その声は朗々と響いた。
「沼気よどむ沼よ! 今ひとつ、我が下に集いたまえ!!」
カルマの足下にただ一つの沼が広がっていく。
あまたの生け贄によって、力を持った沼が。

カルマが青年の目を見る。もう逸らすことはなかった。

ふぅ。
青年が1つ息をつく。
「やられました。 投了です」
そういった青年の顔にはやはり今まで通りの笑みが浮かんでいた。

 


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