勝つには勝った。しかし、そのための代償は決して少なくない。
切り札を2つも見せてしまったのだ。
しかもそれらは使う必要がない呪符だった。「使わされてしまった」のだ。
もはや呪文書の内容のほとんどを知られていると考えて良い。
それに対して、青年の呪文書はその全貌が明らかになっていない。
呪文書の内容を知ることは相手の手の内を予想する手助けとなる。
目に見えたアドバンテージではないが、常に手の内を予想しあい、裏をかこうとする実際の対戦の場合、この差は意外に大きい。
それに今回は青年の呪符の巡りが悪かっただけと予想することができる。
あれだけの膨大なマナを活用することが無かったからだ。
大量のマナを背景に大呪文を連発する茶単。
その黒バージョンならば、予想される呪符は<強行軍>
しかし、それならばマナコストの大きいクリーチャーを場に出すはずである。
ということは・・・。
このとき、カルマはある呪符を思い浮かべていた。
対戦で使われたことはないその呪符。理由は、あまりにも多くのマナを必要とするためだ。
しかし、青年のマナ量を考えるなら、もはやどんな呪符でも問題ない。
| 青年 |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
| カルマ |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
「古の盟約に従い、先攻でいかせてもらいます」
お互いに呪符をめくり、十分にいけると確認したあと、第2戦目が始まった。
「あなたの色が黒だとわかりましたからね。これで遠慮することなく展開できます」
にやりと口元をゆがめ、流れるように呪符を使っていく。
「沼気よどむ沼よ、我が下に」
「我は導く、<暗黒の儀式>」
「その身に多大な魔力秘めし<厳かなモノリス>よ、この地に立て!」
「形無き、されど幾多の扉を開く力秘めし<通電式キー>よ!」
「現れよ、闇に踊る黒の傀儡<ファイレクシアの抹殺者>!」
「なっ・・・」
そのあまりの展開の早さに、カルマは一瞬気が遠くなった。
最初、まだ何もしていないうちから、マナ加速手段と大型クリーチャーの両方が場にそろってしまったのである。
「ちょっと回りすぎのような気もしますけど、まぁ、これもありと言うことで」
そういって終了を宣言する。
はっきり言って青年の呪符の巡りの良さはちょっとどころでは無かった。
先ほどとはまるで別人のようである。
| 青年 |
手札2枚 |
ライフ20 |
| 沼 抹殺者 モノリス キー |
| カルマ |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
相手の場をにらみつけ、対抗策を考えながら、カルマは呪文書から1枚呪符を得た。
そこにあった呪符。
それは今一番欲しかった呪符であった。
「今これを引けるとは。助かったよ。何とかスピードについていけそうだ」
引いた呪符を手に納めることなく、カルマは沼を支配下に入れる。
そしてすかさず今手に入れた呪符を使った。
「我は重ねる<暗黒の儀式>」
そこから<ラースの威嚇者>を召喚する。
「今引いたんですか?」
「ラッキーだったよ。 まだツキに見放されていないようだ」
「なかなかの強運ですね」
だが、青年の顔から笑みを消すことはできない。
| 青年 |
手札2枚 |
ライフ20 |
| 沼 抹殺者 モノリス キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ20 |
| 沼 威嚇者 |
新たな呪符を得た後、青年は抹殺者を攻撃に送り出してきた。
カルマの場にいるのは威嚇者だけ。
カルマは威嚇者をブロックに使わず、抹殺者の攻撃を自分で受ける。
今威嚇者を失ってしまえば傭兵を呼び出すことができなくなってしまう。
傭兵を呼び出すことができれば、抹殺者の攻撃は止められる。
そう考えていた。
しかし、カルマは見落としていた。
青年の手からは土地が出てきていなかったのだ。
もしもここで威嚇者をブロックに使って青年に2つの生け贄を要求することができれば、たとえ沼を生け贄に捧げたとしても、抹殺者か、モノリスか、キーのうちのどれかを失うことになり、結果として後の行動に大きな影響が出ていたはずなのである。
キーの無い、しかも土地のないモノリスはただそこにあるだけのものに成り下がる。
モノリスのないキーもただの魔法道具。力は無い。
最悪は抹殺者が残ることだが、それもクリーチャーや不純な飢えなどで耐えられないことではなかったはずだ。
少なくても、後のターンほどに悪い状況にはならなかっただろう。
| 青年 |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 抹殺者 モノリス キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 威嚇者 |
「輝ける<水晶鉱脈>よ」
カルマは新たに土地を支配して、終了。
とりあえず傭兵を呼び出すことに専念するつもりであった。
カルマの終了宣言に対応して、青年はキーを使い、モノリスの力を取り戻す。
| 青年 |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 抹殺者 モノリス キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 鉱脈 威嚇者 |
「さてと。本来なら抹殺者で攻撃したいところですが、まずは──」
新しく山を支配下に入れ、モノリス、キー、沼と山を使い、モノリスを起こしたまま4マナを確保。
「──これを出してからにします。
我が血・肉・命。その一部をここに捧げる。
命をもって命を生み出す<ファイレクシアの処理装置>」
<ファイレクシアの処理装置>
次々と場にクリーチャーを作り出していく魔法道具である。
場に出るときに生命力をそそぎ込み、その量に比例して、生み出すクリーチャーの強さも変わる。
手の中の呪符を使うことなくクリーチャーやその他の精製物を作り出せる呪符は見た目以上に強力で、時間がたつにつれて、徐々にアドバンテージを稼ぐことができる。
だが、この魔法道具は今までの似たようなものと違い、生み出されるクリーチャーが十分過ぎる大きさを持つため、一気に状況をひっくり返す、逆転を見込める呪符だ。
これ1つで勝負を決められる力を持った強力な魔法道具なのである。
「先ほど、抹殺者をブロックされていたら出せませんでしたけどね」
青年の前に抹殺者、後ろに処理装置がたたずんでいる。
「その前に、前のターンで土地を引いていればそのまま出せただろう?」
「あ、ばれてましたか」
軽口をたたいて返すが、この状況を覆すことが果たしてできるものなのか・・・。
それでもできることをやっておくため、青年の終了宣言と同時に、威嚇者から説得者を呼び出していた。
| 青年 |
手札2枚 |
ライフ13 |
| 沼 山 抹殺者 処理装置 モノリス キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 鉱脈 威嚇者 説得者 |
新たな呪符を得る。
何か逆転の手段は無いか・・・。
新たに沼を出したあと、手の中と場を見つめ、少し考える。
時間がたてばたつほど不利になる。
しかしここで攻撃して生命力を削ったところで問題が解決するとは思えなかった。
青年が使っているのは抹殺者や処理装置といった、自分のライフや精製物を危険にさらす、リスクの大きなものばかりだ。当然、そのことも考えて呪文書を作っていると考えた方がいいだろう。
──我慢だ。
カルマは終了を宣言する。
| 青年 |
手札2枚 |
ライフ13 |
| 沼 山 抹殺者 処理装置 モノリス キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 沼 鉱脈 威嚇者 説得者 |
「せっかくの抹殺者で攻撃できないのは、ちょっとつらいですね」
場をちらりと見て、嘆息する。
呪文書の相性と言うものなのだろうが、抹殺者が本来の力を発揮しているとは言い難い。
打ち消し呪文を駆使する呪文書の様に、ダメージを与える手段をほとんど持たない時には無類の力を発揮するが、今回のカルマのようにブロッククリーチャーが次から次へと出てくる呪文書を相手にする場合には、弱点ばかりが目立つようになる。
「それでも、いるだけで恐怖だよ」
カルマはその巨躯を見上げながら、素直な一言を漏らした。
少しでも展開が遅れた場合、そして一瞬でもスキを見せた場合、すかさずその力が襲ってくるという危機感は、目に見えているとはいえ、安心していいものではない。
「まぁ、こちらにはこれがあるからいいですけどね」
処理装置を、こんこんとこぶしでたたく。
カルマは何も言わない。
そのあと青年はモノリスから生み出したマナでもう一つの通電式キーを作り出し、また、その力を使ってもう一度モノリスを使用。
「ファイレクシアの処理装置よ、代価にふさわしき奴隷を生み出せ」
生み出されたマナを使ってファイレクシアの処理装置を起動させた。
処理装置の口が開き、その中からクリーチャーが1体生み出される。
その力はファイレクシアの抹殺者をもしのいでいた。
青年が手番を譲ろうとしたとき、カルマはさらに傭兵を呼び出す。
威嚇者からショークーの工作員、説得者からは換羽するハーピーである。
処理装置から生み出されるクリーチャーがカルマを押しつぶす前に空からの攻撃で青年の生命力を削りきる考えだった。
| 青年 |
手札2枚 |
ライフ13 |
| 沼 山 抹殺者 ミニオン 処理装置 モノリス キー キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 沼 鉱脈 威嚇者 説得者 工作員 ハーピー |
ハーピーが追加の魔力を要求する。
カルマは黙ってそれを与えた。
もはや地上の攻撃では青年の処理装置を乗り切ることはできない。
頼れるのはこいつしかいないのである。
もう一つ沼を支配した後、カルマはハーピーを攻撃に送り出した。
空からの攻撃で、ブロックすることもできない青年にわずかとはいえダメージを与える。
工作員の力でパワーアップさせることも出来たが、今は見送った。
とりあえずもっとプレッシャーを与えるために、傭兵を増やす。
場の威圧、つまりはブラフまでも活用していかなければ活路が見いだせない。
そんな状況にまで追い込まれていた。
| 青年 |
手札2枚 |
ライフ11 |
| 沼 山 抹殺者 ミニオン 処理装置 モノリス キー キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 沼 沼 鉱脈 威嚇者 説得者 工作員 ハーピー |
青年はさらに沼を支配し、走り回るスカージを呼び出して手番を終了。
「攻撃に来ないのか?」
問いかける。
「今回だけは見送ります」
冷静に返してきた。
もしもミニオンで攻撃してきた場合、カルマはブロックするつもりはなかった。
終了時に水晶鉱脈を生け贄に捧げ、生み出したマナで2体の傭兵を呼び、次の自分の手番で全軍攻撃。
たとえ青年が新しいミニオンを生み出し、スカージと抹殺者までつかってブロックしても、すり抜けた3体が暗黒の凱歌、そしてショークーの工作員の力によって青年のライフを削りきるだけのダメージを生み出してくれる計算になる。
青年はそれを見破っていた。
さっきの対戦で切り札を見せたことが、ここで響いてしまったのである。
青年が終了を宣言したとき、カルマは自分の手札と場をじっと見て考える。
今、青年の場にいるのはスカージ、抹殺者、ミニオン。
処理装置からもう1体ミニオンを生み出すマナもあるので、合計4体までブロックされてしまう。
ここで水晶鉱脈まで使って傭兵を2体増やしてもやはり2体しか通り抜けることができない。
暗黒の凱歌と工作員の力を使っても青年のライフを削りきることはできそうになかった。
| 青年 |
手札1枚 |
ライフ11 |
| 沼 沼 山 スカージ 抹殺者 ミニオン 処理装置 モノリス キー キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 沼 沼 鉱脈 威嚇者 説得者 説得者 工作員 ハーピー |
青年の終了時にさらに説得者を呼び出したカルマは、自分の手番でハーピーを維持させた。
そして、呪符を1枚手札に入れる。
「攻撃」
沼を支配下に入れたあと、カルマはハーピーだけで攻撃させることにした。
全軍攻撃させて青年のライフを削り、プレッシャーをあたえることはできる。
抹殺者でブロックしてきたなら、工作員の力をそのクリーチャーに集中させて大量の生け贄を要求することもできただろう。
しかしそうした場合、相手の場にはミニオン2体と抹殺者が残り、ライフも十分。
殴り合いでは勝てない。
ならば、少しでもライフを削っておく。
攻撃に来たハーピーを、青年は見過ごして自分でダメージを受ける。
──さらに傭兵を呼びだして、次の自分の手番で勝負だ。
そんな淡い希望を持っていた。
甘かった。
カルマが手番を譲ろうとしたときに、青年は処理装置を起動するのではなく、モノリスの力を取り戻した──。
| 青年 |
手札1枚 |
ライフ9 |
| 沼 沼 山 スカージ 抹殺者 ミニオン 処理装置 モノリス キー キー |
| カルマ |
手札5枚 |
ライフ15 |
| 沼 沼 沼 沼 鉱脈 威嚇者 説得者 説得者 工作員 ハーピー |
「ふう。ようやく息がつけます」
全ての力を取り戻し、青年がゆっくりと深呼吸する。
追加で呪符を1枚めくり、ちらりと見たあとにそれを脇によけた。
「・・・なんのつもりだ」
「ああ、これですか?」
脇によけた呪符を指し、苦笑する。
「もうこれは必要ありませんから」
それはカルマにとって自身の敗北を宣言されたに等しかった。
2つの沼と、3度起動された厳かなモノリスから多量のマナが引き出される。
「ケルドの地に吹きし第2の風よ。もぎ取る風よ。
価値無きものそのことごとくを破壊せよ。<疫病風>」
空に渦巻く風が黒く色を染め、次第に力を持ち始め、カルマの陣営に襲いかかる。
「くっ」
一気に強まった強風に顔を覆い目を細め、片膝をついて吹き飛ばされないように耐える。
長い時間、いや、実際にはごく短い時間であっただろうが、吹き荒れた黒い風が始まりと同じく突然にやむと、そこに見たのは地に倒れ伏したカルマのクリーチャー達だった。
場に残っているものは1体もいなかった。
そこに、青年のクリーチャー達が襲いかかってくる。
空からはスカージ。地にはファイレクシアの抹殺者と、処理装置から生み出されたミニオン。
その全ての攻撃を受けてなお立っていられるほど、カルマの生命力は残ってはいなかった。