第1章 カルマ、運命を支配する 

 

第3節 少年との対戦 その3


既に2回負けている。本来ならこの決闘はカルマの負けだ。
しかし、ありがたいことに少年はまだつきあってくれるようだった。
デッキのバランスを崩さないように、メインの呪文書をさらに組み替える。
少年も2枚ほど入れ替えたようだ。
おそらく苦戦した死霊のために追加のダメージ呪文──おそらくハリケーンといったところ──を追加したのだろう。
ティタニアに選ばれし者がパワーアップするし、相手本体にダメージが入るのだから、猛火と比べてこちらの方が有効だとカルマは考えているが、今度は地上の嫌らしいクリーチャーに対応できないので一概にどちらが良いとは言えない。それにカルマが予想しただけで、本当にそうだという確証は全くない。
とにもかくにも、さらに注意をしなければいけない呪符が増えたことは間違いなさそうだった。


「古の盟約に従い、後攻で、お願いします」
「え?」
「後攻で」

カルマはわざと先攻を相手に譲る。
さっきの決闘、負けたとはいえ、本来は勝っていた決闘である。
負けたのは、自分を戒めるためであり、先攻が欲しかったからではない。
しかし、少年は納得いかないようだった。

「どうして後攻なんですか?」
「・・・」

まさか、さっきの決闘を負けたのはわざとで、本当は勝っていたからとは、言えない。
それは少年の自尊心を傷付けるだろう。
「カードがね、欲しいんですよ」
「ふ〜ん」
苦しい言い訳をする。
少年はまだ少し納得がいかない顔をしていたが、やがて悩むのをやめたようだった。
「それじゃ、ボクが先攻でいきます」
「はい、どうぞ」
カルマは相手に手のひらをみせ、それを促した。
これ以上問いつめられるとぼろが出そうだった。

少年 手札7枚 ライフ20
無し
カルマ 手札7枚 ライフ20
無し

おそらく、これがこの少年との最後の決闘になる。
それがわかっているから、カルマは最初の手札に恵まれることを強く望んだ。
シャッ
お互いに7枚の呪符を引く。
・・・。
──よしっ。
手札を確認後、思わず握り拳を作る。
これで負けてしまうなら、呪文書の作り直しだ。
考え得る最高とは言わないまでも、その手札は言い訳を許さないすばらしいものだった。

「どうやら、いい手札みたいだね」
少年にそういわれて、はたと気がつく。
周りが見えないほどに自分の手札に集中してしまっていた。
──リラックス、リラックス。
目をつぶって深呼吸をし、肩を回す。そしてゆっくりと目を開けた。
「マリガン、なしです」
「はい」

「それじゃ、いきます。 森、そしてラノワールのエルフ召還!」
少年の元気な声が響く。
うん、いい感じだ。
さっきまでなら、最初にエルフが呼び出されて、そのスピードについていけるのか不安を感じるところである。
しかし、迷いは捨てた。
自分の力とそしてこの呪文書を信じて、対戦すること。
それがこの少年に対する礼儀だと、カルマは考えていた。

少年 手札5枚 ライフ20
森、ラノ
カルマ 手札7枚 ライフ20
無し

カルマの手番。1枚呪符を手に入れた後、島を場に出して終了を宣言する。
手の中に強迫は無い。
しかしそれでもかまわない。
カルマの手にはランドールからの贈り物が握られていたからだ。

少年 手札5枚 ライフ20
森、ラノ
カルマ 手札7枚 ライフ20

森とラノワールのエルフが力を取り戻す。そして呪符を手に入れた後、そこから今までとは違う土地が飛び出してきた<平地>である。
これが何を意味するのか。
もちろん、白の呪文が含まれているに違いない。
ではそれは何か。
さっきまでのように、カルマに慢心はない。
一手進む毎に思惑を巡らせていく。
それで怖がって手を止めてはならないが、明らかなミスによる自滅というのはなんとしても避けたかった。
白から生み出されるマナで警戒しなければならない呪符は一体何か。
その枚数は多くはないだろうが、あえて白を混ぜるということは白にしかできないことのはずである。
しかも白マナ依存率が一つだけといえば・・・。

そうしている間に、少年はさらに呪符を使っていく。
そこから出てきたのはティタニアの選ばれし者。
第一戦目を彷彿とさせるその流れに、しかしカルマは落ち着いたまま眺めていた。

少年 手札4枚 ライフ20
森、平地、ラノ、選ばれし者
カルマ 手札7枚 ライフ20

さらに呪符を手に入れた後、今度は沼を支配下に入れ、終了を宣言する。
手の中には2マナで使える呪符も有るうえに、対抗呪文もあったが、あえて沼を場に出した。
理由は、もちろんあの呪文を使うためである──。

少年 手札4枚 ライフ20
森、平地、ラノ、選ばれし者
カルマ 手札7枚 ライフ20
島、沼

森、平地、ラノワールのエルフが再び力を取り戻す。
呪符を得て、森を支配下に加えた。
ここで4マナ。
カルマが警戒している恐るべき白の極大呪文すらもが、もはや使えるようになったのだ。
気は抜けない。
一瞬でも隙を見せるといつやられてしまうかわかない状態であった。
強迫によって相手の手札が確認できないことがカルマの行動に制限を加えていた。

「地脈の流れ知る知恵者、<ヤヴィマヤの古老>」
これまでてこなかったと言うことは、ただ単に引かなかっただけか、それとも数枚しか入っていないのか。どちらにせよこれ以上クリーチャーを許してしまうとライフが持ちそうになかった。
「そんなものまで入っていたとは。しかしそれは<誤算>です」
それに古老は自身を生け贄にすることで新たな呪符を得る力があり、しかも地に倒れたときに呪文書の中から基本地形を2枚まで手札に入れてよいということになっている。
それほどのカードアドバンテージを得られる上に、古老自身のパワーも小さいわけではない。そんな呪符を許すわけにはいかなかった。

しかし少年はカルマの青マナが無くなると、残りの1マナを使って今度は怨恨を使ってきた。対象はみたびティタニアの選ばれし者。
「それは、、、やっぱりダメです」
カルマは自らの血を流し、選ばれし者に<殺し>をかける。
呪文を打ち消しつつ、選ばれし者と怨恨、両方を除去できるこのチャンスのために、さっきはマナを温存したのである。
その試みは、どうやらうまくいったようだった。
「やられちゃった〜」
少年はあきらめきらない様子で、しかし我慢して選ばれし者と怨恨を墓地に送る。

少年 手札2枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札5枚 ライフ16
島、沼

アンタップ、アップキープ・・・無し。ドロー・・・
ふるえていた指もことここにいたってようやく収まっていた。
──大丈夫。ここはいける。
さらに島を支配下に入れると、沼から出した黒マナでさらに暗黒の儀式をかける。
そして、ランドールからの贈り物である、呪符を場に送り出した。
その呪符とは<占いの鏡>
起動に少なくないマナがかかるが、相手の手札を予想してそれが当たった場合、追加のドローが許される魔法道具(アーティファクト)である。
追加ドローもいいが、カルマが今このアーティファクトに望むことは相手の手札確認であった。
手札がわかれば、どれを打ち消し、どれを無視すべきか決められる。
強迫のように手札を捨てさせると言うことはできないが、それは追加のドローがカバーしてくれるだろう。
そしてこれは使い捨てではない。
自分の手番が回ってくるまでに1回だが、使い減りすることなく、何度でも使用可能なのである。

相手に手番を譲ろうとしたとき、カルマの体に痛みが走った。
マナ・バーンである。
暗黒の儀式から生み出されたマナは占いの鏡を作り出すためには多すぎて使い切ることができなかったのだ。
しかし、ここで島を2つ立たせておかない訳にはいかない。
少年の手札の中には絶対に打ち消さなければならない致命的呪符がある──。
それをカルマはひしひしと感じていた。

少年 手札2枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札3枚 ライフ15
島、島、沼、鏡

少年が新しい呪符を引く。
そしてカルマの場にある島を忌々しそうに眺めていた。
──やはり、この島2枚は絶対に譲れない。

「ラノワールのエルフで攻撃!」
ブロッククリーチャーもいないカルマにはそれを防ぐ手だてはない。
エルフがカルマの生命力を削り取っていく。
しかし所詮は非力なエルフ。まだ、時間はある。
いつまでも無視するということはできないが、少年の手に握られているであろう新しい脅威に対する備えをかなぐり捨ててまで対応する気にはなれなかった。

少年 手札3枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札3枚 ライフ14
島、島、沼、鏡

カルマは新たな土地──地底の大河──に支配を伸ばすだけで手番を終了。
黒と青のどちらでも生み出せるこの土地は色マナを生み出すとき使用者の生命力を奪っていく。
だが、土地の色マナがそろわずにいるよりはずっといい。
そういった意味でカルマはこの土地を使っていたが、序盤を乗り切りつつある今ではそろそろその役目も必要なくなってきていた。

少年 手札3枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札3枚 ライフ14
島、島、沼、大河、鏡

少年も手札をため始めていた。カルマの青マナが無くなるのを待っているのか、それともいっぺんに呪文を使うつもりなのか、ただ単に引きが悪いのかわからないが、カルマにとって時間が稼げるのはありがたいことだった。
新しい呪符を手に入れてその手札を4枚とした後、エルフで攻撃。また少しカルマのライフを削った後、終了を宣言した。
それに対応して、カルマは占いの鏡を起動する。
一度終了を宣言してしまうと、再び自分の手番が回ってくるまで、使えるのは簡易呪文(インスタント)だけである。
白と緑で打ち消さなければならないインスタント呪文は、カルマの知りうる中、1枚も無かった。
「緑の呪符を2枚、持っていますね?」
相手の手札の色と枚数を予想する。
正解なら追加で1枚呪符を手に入れることができる。
しかし、本当に嬉しいのは手札が確認できることだ。
相手はその手札をさらけ出し、それが正解か不正解か示さなければならないのである。
その際に手札を確認しておけば、これからの行動が、つまり未来が見える。
場合によっては未来を変えることすら不可能ではない。
──さぁ、見せてもらいましょうか。
少年がその手札をさらす。
よりよい品物、激励、山、そして・・・ハルマゲドン。
土地を全て破壊するこの極大呪文のことをカルマは予想していた。
しかしどれほど自信を持っていても予想は予想であり、確信というまでには至らなかった。
それが、手札の確認ということで、確かな現実となる。
──これで、島2枚は絶対に使えなくなったな・・・。
大きくマナが拘束されてしまったが、持っていないと予想してマナを使い切り、そこにたたき込まれるよりはどれだけましなことかわからない。
場の優位はとれていないとは言え、相手の場にいるのがエルフ1体だけならまだ時間はある。

少年 手札4枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札4枚 ライフ13
島、島、沼、大河、鏡

相手の手札を当て、追加でドローをしたカルマの手札は自分の本当のドローも加えて、一気に5枚まで増えていた。
さらに島を支配下に加える。
ハルマゲドンを喰らったときのために手札に残すなどというバカなことはしない。
ハルマゲドンは絶対に打ち消さなければならず、通してしまえば負けである。
それならば、出せるだけの土地を出し、マナを確保していった方が良い。
島2枚は封じられているのである。

少年 手札4枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札4枚 ライフ13
島、島、島、沼、大河、鏡

さらに手札をため込む。
今回は何を引いたのか──。
すぐに確認をしたかったが、今ここでマナを使ってしまって脅威に対応できなくなっては本末転倒。
カルマが何もしないのを見て、少年はさらにエルフでカルマのライフを削る。
そろそろ無視もできなくなってきていた。
少年の終了宣言とともに占いの鏡を起動する。今度は、白が1枚と予想した。
さっきの手札の中で持っていた白のカードはハルマゲドンのみ。それに白の呪符はそれほど多くないはずだ。緑の呪符ならば引いたり引かなかったりでその枚数が変わることも結構あるが、白ならばその心配は少ない。
再び少年はその手札をさらす。
よりよい品物、激励、山、ハルマゲドン、今回引いたのであろうそこにあったのは、猛火だった。
案の定、白のカードは1枚だった。追加で呪符を1枚引く。
追加のドロー。これもうれしい。
そしてもう一つ注意しなければならない呪符、猛火の存在が確認できた。
相手の手札確認とドロー強化。
この2つを同時に成すこの魔法道具の導入はやはりかなり正解だったようだ。
カルマは心の中でもう一度ランドールに感謝した。

少年 手札5枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札5枚 ライフ13
島、島、島、沼、大河、鏡

占いの鏡のドロー能力のおかげで、カルマの手札はいつもの倍のスピードで増えている。
カードアドバンテージの獲得だ。
自分のドローをしたところで、カルマは場と手札、そして先ほど確認した少年の手札を思い出して、しばらく考え込んだ。
このターン、土地を出せば6点のマナが確保できる。
少年の手札に脅威となる呪文は3枚、よりよい品物、ハルマゲドン、猛火。
どれも脅威であることに代わりはないが、そのマナの必要量から、少年のマナ量では一度に2つの呪符を使うことはできない。
そして自分の手札は──。

──いや、まだだ。まだダメ。
少年の脅威をしりぞけるにはまだもう1ターン必要だとカルマは判断した。

場に沼を出し、続いて若返りの泉を出す。
ごく少ない量だが、少しずつ生命力を回復させるこの呪符も、それほど珍しいものではないとはいえ、対戦で見かけることはほとんどない。しかしこれもまたカルマのキーカードの内の1つだった。

少年 手札5枚 ライフ20
森、森、平地、ラノ
カルマ 手札4枚 ライフ13
島、島、島、沼、沼、大河、鏡、泉

少年の手札はついに6枚。それだけを見ればカルマよりもカードアドバンテージはとれている。
だが、カルマには見えている。
その手札にはもはや脅威とはならない呪符も含まれていることを。

少年は手の中から山を出すと、エルフで攻撃してきた。
若返りの泉がある今、もはやこのひ弱なエルフだけではカルマのライフを削ることは不可能になっていた。

終了するときに、まず占いの鏡で少年の手札を確認。新たに山を手に入れたのだとわかると、続いて若返りの泉で少しの生命力を回復させる。もちろん、追加のドローも忘れなかった。

少年 手札5枚 ライフ20
森、森、平地、山、ラノ
カルマ 手札5枚 ライフ13
島、島、島、沼、沼、大河、鏡、泉

このドローでついにカルマは少年よりも多い手札を手に入れた。
そして、期待していた最高の呪符を引き込んだのである。
常に少年の手札を確認しているカルマにとっては、もはや未来が見えていた。

もう一度少年の手札を思い出す。
そして自分の手札を見る。
確認した後、カルマはある呪符を唱えることにした。
それは今回の呪文書を作るきっかけとなった、キーカード──。

「希望も絶望も、栄光も挫折も、夢も現実も、全ては未来にこそたどり着くものなり。
我ら其を支配する。
我と汝が命を捧げ、互いに等しく其を奪わん <ズアーの運命支配>!」

<ズアーの運命支配>
自らの生命力を使用することで、相手の未来を奪う力を発揮させる場を生み出す全体魔力賦与呪文。
新しく手にいれた呪符に干渉し、自らの命を削ることで相手の呪符を──つまりは未来を──奪うことができるようになる。
そしてこの場の中では手札を隠しておくことはできない。全てさらけ出さなければならないのである。
カルマも、少年も、その手札をさらす。
少年の手札はわかっている。
よりよい品物、激励、山、ハルマゲドン、猛火だ。
そしてカルマの手札はというと、
睡魔、強迫、そして3枚の対抗呪文。

睡魔でクリーチャーを、残りの手札でその他の呪文を封じる。
クリーチャー以外で打ち消さなければならない呪符はズアーの運命支配で奪い去る。
全てがさらけ出されたこの状況では、占いの鏡は100%の成功率を出すことができた。
しかも場には若返りの泉がある。
生命力の回復量はわずかずつであるとはいえ、ズアーによる運命支配を永遠のものとするにはそれは十分であった。

相手よりも有利な場と手札、多量のマナとドロー能力。
ライフは確かに今は少ないが、何とでもなる。この状況では少年の呪文書の中で困ることになる呪符は数少ないはずだ。

予想通り、次のターン、少年はクリーチャーを引いたが、あえて召還せず、エルフと激励でカルマのライフを一気に削る。
このダメージでカルマはズアーの運命支配で捨てさせることのできる呪符が2枚少なくなったが、まったく問題としていなかった。とりあえずまだ3枚削れるだけの生命力は残っている。若返りの泉に浸かっていれば、失った生命力も取り戻せる。
睡魔を展開し、少年のクリーチャーと、クリーチャー補助呪文を封じると、続けざまに放たれる猛火とハルマゲドンを打ち消し、よりよい品物を強迫する。

手札が無くなり、エルフが睡魔に眠らされて、自分の呪文書にある逆転の呪符はズアーの運命支配で封じられている。
「負けました」
できることが無くなった少年は素直に負けを認めてくれた。
どうやら、何とかなったようではあった。

 


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