第2章 魔物と受付嬢 

第1節 魔物と受付嬢 第1戦目


(…ったく、バカ言ってんじゃないわよ、あのバカ…)
口を固く結び、アルフの腕を引っ張りながら、足早に先へと急ぐ。その後ろでカルマがジェネシスを助け起こしていたが、もちろんオーディアにそれを振り返る余裕など無かった。
(必要ないわよ…あんな…あんなもの…)
何をするときに使うものなのかそれくらいは知っていた。だが実際に見たのは初めてだ。
オーディアはこれから勝負することになる相手の顔をちらりと振り返った。本当に綺麗な顔立ちをしている。黙っていれば、そしてよくよく見れば誰もが魅入ってしまう美形…とまではさすがに言わないが、背の高さやルックスはかなりのものだ。普段の口の悪さとにやけた顔つきがひどくそれを傷付けていたが、振り返ったそのときは真剣な顔つきをしていて、思わずオーディアは見とれてしまう。
(もし負けたら、こいつと…?)
あんなものを使わなければいけないことをする事になる。この綺麗な顔に見つめられ、抱きしめられて…そのあと……そんなことをぼんやりと頭に思い浮かべる。
「ん? どうした」
それに気が付いたアルフがオーディアの顔をのぞき込んだ。止めようもなく、かーっと顔が赤くなる。
「な…何でもないわよっ」
「そうかぁ?」
オーディアはその視線を受け止められず、つい、と逸らし自分のつま先を見る。
(何考えてるのよ、あたし…)
ドキドキと鼓動が早まる。
「先急ぐわよ」
腕ではなく服の袖口をつかむと、また先を歩き始める。
「俺はまた、今夜のことでも考えてたのかと思ったぜ」
ぎくり、と、オーディアの胸がなる。
「なにバカ言ってんの。そんなことあるわけないでしょ」
「ほう? それじゃぁよ…」
「あっ…」
アルフは手を引いてオーディアの体を引き寄せ、振り向かせると
「俺の目を見て嘘だって言ってみな?」
真剣な眼差しでオーディアの目を見つめる。
「ぅ…」
つい一瞬前まで見とれていた顔をすぐそばに近づけられ、オーディアは言葉を無くして立ちすくんだ。視線を逸らすことができない。深い深いダークレッドの瞳に射すくめられ、何を言ったとしても見空かされるような気がしていた。
「〜〜〜〜〜〜」
なぜか顔を赤くすると耐えきれなくなって後ろを向く。
「なんでぇ。やっぱり図星か」
「くっ…」
一言も言い返せないオーディアに、アルフレッドは目を猫のように細めながら、
「何だったら勝負し無くったっていいんだぜ? ご希望とあればいくらでも相手になるからよ。キシシシシ」
キレイな顔をまるで別人のように歪める。
「〜〜〜〜〜〜!」
だんっ!
「っっ!!」
間髪入れずにオーディアの3度目の蹴りがアルフレッドの足を踏みにじった。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ…。  ……ふんっ」
顔を真っ赤にして、息を荒げながら、とうとうオーディアはずんずんと一人で先に進んでいってしまう。拳を握りしめ、腕をまっすぐにしながら、足早に先を急ぐその姿は、意地を張っているように見えるが、同時に何かから逃げるようでもあった。
(誰がっ 負けるもんですかっ そうよ。一度だって負けてやらないんだから。こんな男が…どうだっていうのよ。しっかりしなさい、オーディア)
目の前にちらつく男の顔を、頭を振って追い出した。

大きなドーム状の部屋にたどり着く。床一杯に魔法円が描かれているその部屋は、ついさっきまでカルマとジェネシスが対戦を繰り広げていた場所だった。
そしてこれからすぐにオーディアとアルフレッドの対戦が行われる場所となる。
アルフレッドがしっかりと部屋の中に入り込むのを確認した後、魔法円を起動させる。あたりの情景が日の沈みかけた、夕焼けのまぶしい草原へと変化した。オーディアは背後に夕日を背負い、腕組みしながらアルフレッドの方を直視している。
「どう? あんたがあたしに負ける舞台としては上等でしょ?」
横風が長い黒髪をなびかせる。影が長く尾を引いた。
「俺は負ける気なんてねぇし、場所なんてどこでも構わねぇんだががな…」
そういって、オーディアから視線を逸らすと、その向こうの夕日を目を細めながら眺めた。
「確かに舞台としちゃぁ悪くねぇ」
「そうでしょ?」
「なんでぇ、やっぱりそのつもりなんじゃねぇか」
「? どういう意味?」
「もうすぐ日が沈む。終わる頃にゃちょうど夜って訳だ。おまけにここは草原だぜ?確かに舞台としちゃ悪くねぇ。お前もいろいろ考えてんだなぁ。キシシシシ」
「なっ…!」
そのいわんとする意味を理解し、オーディアの顔に再び朱がさす。だがそれは夕焼けの赤さによってわからなくなっていた。
もう一度足を、今度は二度と立てなくなるほどに踏みつけてやりたかったが、数歩離れて対峙している今はそれもできない。
「〜〜〜〜っ いつまでもバカ言ってないで! 始めるわよっ!」
「おう、こっちの準備はいつでもいいぜ」
片目をつぶり、口元に嘲りの笑みを浮かべる。
(そうよ、あたしが勝つのよ。そうすれば何も問題ないのよ)
コインを取り出し、
「Head or Tails ?」
頭の中の雑念を振り払うように、親指で大きく跳ね上げる。
「そのコインはあんま好きじゃねぇんだけどなぁ…。Head にしとくぜ」
二人の間にコインが落ちる。猛毒を持つサソリの尾が次の獲物を狙って振り上げられていた。
 



オーディア 手札7枚 ライフ20
無し
アルフレッド 手札7枚 ライフ20
無し

カードケースからカード状の呪符を7枚抜き取り、手で広げる。
(まずまずね…)
ちらりとだけ手札を確認する。
同時にアルフレッドも自分の呪文書から7枚引いていた。
「さぁて、お手並み拝見といくか。相当な自信だったからな。どんな呪文書なのか楽しみだぜ」

「行くわよっ」
右手で1枚のカードを抜き取り、上に向かって放り投げる。くるくると回転するそれに向かって、いつの間にか支配下に加えていた森から緑マナを引き出し、マナを注ぎ込む。
「大空に羽ばたけ、輝く鳥よ!《極楽鳥》!」
ぱあぁ──
カードが緑色の光に包まれ収束し、そして次の瞬間、光の中から1羽の鳥が羽根を羽ばたかせながら飛び出してきた。2回ほどオーディアの頭の上を飛び回ると、その肩に舞い降りる。
《極楽鳥》
見るからに戦いには向かない小さな体。そのくちばしで何度体をつつかれようとも、おそらくダメージを受けることなどないだろう。純粋に力だけ考えたなら、これは空を飛んでいることが利点の、ただの小鳥にすぎない。だがこの小さな鳥には他のどんなクリーチャーすらもが持ち得なかった恐るべき力が宿っていた。
虹色に輝くその羽根が羽ばたくたび、そこからはどんな色のマナでも引き出せるのである。
「あなたのばんよ」
肩に留まった極楽鳥の頭を撫でながら、オーディアはアルフレッドに手番を渡した。

オーディア 手札5枚 ライフ20
 極楽鳥
アルフレッド 手札7枚 ライフ20
無し

「なんだなんだぁ? 今流行りのファイアーズってやつかぁ?」
使われた呪符から相手の呪文書構成を予測する。これは呪符を使うものにとって当然のことだ。
世間に知られている呪文書の中で、一般的に『強い』と言われる呪文書には限りがある。そのため、相手の呪文書構成の予想はまず、それら知られている呪文書かどうか推測することから始まる。最初の1つで相手の全てが見えることは珍しいが、緑から、特に極楽鳥のマナ加速から展開する呪文書は、その大半がファイアーズと呼ばれるものだった。
侵略の時代に、クリーチャーの召喚酔いを無効にしながら、いざとなればクリーチャーを助ける力ともなってくれる《ヤヴィマヤの火》が発見され、クリーチャーの打撃力が大きく向上した。呪文書の構成や動きが単純化してわかりやすいうえ、大型クリーチャーが殴り、火力呪文で焼き切る爽快感、そして根本として『とても強い』ため、呪符を覚えたての初心者から、数々のギミックを操れる上級者までもがこの呪文書を愛用した。もちろん、呪符魔術師同士がぶつかり合う呪符魔術大会ともなれば対戦相手として一番の念頭に置かなければならず、まず『ファイアーズに勝てること』が強い呪文書の条件だったのである。
「ちっ。結局はお前も、そこらにいくらでもいる奴らと同じだったって訳かよ?」
いいながらその足下には沼が広がっていった。どろどろとした沼は形を持たないはずにもかかわらず、いや、だからこそ相手に恐怖の念を抱かせる。
「いいぜ、お前の番だ」
無造作に自分の終了を宣言する。
「あら。 この子は見逃してくれるの?」
ファイアーズに対抗する第一の手段は、まずマナ加速をするクリーチャーを除去することだった。これが除去できない場合、一気に劣勢に立たされる。
このため、最序盤に1つのマナでクリーチャーを除去できない呪文書はダメとまで言われているほどだ。
だが、それがわかっているのか、アルフレッドは極楽鳥を除去しなかった。
「どうせ次はヤヴィマヤの火かキマイラ像だろ? さっさとしな」
どんなデッキを操るのか、それを楽しみにしていたアルフレッドは、平凡な呪文書を使っているオーディアに対し、期待していた分だけ、落胆しかけていたのである。

オーディア 手札5枚 ライフ20
 極楽鳥
アルフレッド 手札7枚 ライフ20

「本当にいいの?」
「動きのわかってる呪文書相手にしても面白くねぇんだよ。ったく。そういう女はすぐに飽きられっちまうのがオチなんだぜ?」
「飽きるってなによ……ずいぶんな言い方ね… いいわよ。容赦しないわ」
あまりの毒舌加減に、オーディアの声音が変わる。
「《カープルーザンの森》」
カープルーザンの森からは緑と赤のマナを引き出すことができたが、そこから色マナを得るためには自分の生命力がわずかに削り取られることを我慢しなければならない。だが、序盤にマナの色が合わなくなる可能性を減らすことは、わずかに生命力を削られることをなど問題にならないほどの大きなメリットだった。
同時に極楽鳥が羽ばたく。羽の色が赤く変色する。カープルーザンからも同じ色のマナが引き出された。
(赤!?)
アルフレッドの顔に驚愕の表情こそ浮かびはしなかったものの、動揺はさそった。
「みてなさい。あなたの自信の全てを《略奪》してあげるわ」
槍のようなものが沼めがけて降りしきる。アルフレッドの足下に広がる沼にそれらが深々と突き刺さると、えぐるようにかき回され、ついにはその役目を果たせなくなっていた。
オーディアは左手の肘に極楽鳥を呼び戻し、
「どう? 少しはぴりっときたかしら?」
軽くウインクしてみせる。
「ほぅ?」
アルフレッドの眉がつり上がる。

オーディア 手札4枚 ライフ19
森 カープルーザンの森 極楽鳥
アルフレッド 手札7枚 ライフ20
無し

呪符を引き込み、そして今度は《塩の湿地》を作り上げる。
「ま、こんなんじゃできるこたぁねぇよな。いいぜ、終了だ」
《塩の湿地》は何のリスクもなく黒と青のマナを引き出してくれる。ただし支配した瞬間には力が蓄えられていないため使うことはできない。基本地形よりも優秀なマナ生産能力を持つがゆえの当然のリスクだった。

オーディア 手札4枚 ライフ19
森 カープルーザンの森 極楽鳥
アルフレッド 手札7枚 ライフ20
塩の湿地

「何もできないようね」
「そうみてえだな」
手の中の呪符を右へ左へともてあそびながら、それでもアルフレッドは意に介してはいない様子だった。
「そんなことであたしに勝てるのかしら?」
手札からカードを一枚引き抜き足下に叩き付けるとそこからさらに《森》が広がっていく。
さらにもう一枚、今度はアルフレッドとの中間あたりに向かってカードを放る。しゅるると回転が加えられたそれの力を解放させるため、オーディアは3つの土地とさらには極楽鳥からもマナを引き出した。
「獰猛なる牙と爪と顎をもって、この地にあらわれよ《ブラストダーム》。 たとえその命、泡と消えゆく定めとしても!」
カードから大量の泡が吹き出し、そしてその中から巨大な体躯と鋭い牙と爪を持った一匹の獣が姿を現した。
《ブラストダーム》
仮面の時代、一定時間の間しか形をたもっていられない呪符が数多く発見された。それらの呪符はまるで消えゆくように見えたため、その効果時間単位を『消散』というもので表している。
これら『消散』を持つ呪符は一定の時間しか効果を発揮していられない。だがそのかわりに通常よりも遙かに強い力を持たせることに成功していた。
たとえばこの、体中を泡だたせる巨大な獣は、同じだけのマナをつぎ込んで作ったクリーチャーと比べ、通常では考えられないほどの攻撃力と生命力を持っていた。いずれ消えゆく定めとはいえ、それまでの間自由に暴れさせたのでは、まるで身が持たない。そして全身から吹き出す泡のため、この獣を対象とする呪符は全てはじかれてしまうという能力までも持っているのである。文句無しの強力クリーチャーだった。

オーディア 手札3枚 ライフ19
森 森 カープルーザンの森 極楽鳥 ブラストダーム(3)
アルフレッド 手札7枚 ライフ20
塩の湿地

緑の展開速度には驚異的なものがある。
各種のエルフと極楽鳥を使い、相手よりも1段早く攻撃を開始する。
そして緑のクリーチャーは他の色よりもひとまわり大きい。
オーディアの呪文書はさらに土地破壊を加え、相手を1手足踏みさせる狙いがあった。
ついでに言えばアルフレッドは後手番。オーディアよりも1回分遅いのである。
「この物量差はどうよ」
新しく呪符を引き8枚になった手札を見もせず、場に目を向ける。アルフレッドは苦笑いを禁じ得なかった。
単純に考えて4歩分遅いのだ。これはどう考えても、たとえどんな呪文書と戦っていたとしても、遅すぎる、決定的な差であった。確かにアルフレッドの方が手札が多い。だが、手札の多少が勝負の行方を左右する前に、既に場にある脅威が全てを決めてしまうだろう。
アルフレッドは新しく《島》を支配すると、再び手札をまとめ、手番を譲った。

オーディア 手札3枚 ライフ19
森 森 カープルーザンの森 極楽鳥 ブラストダーム(3)
アルフレッド 手札7枚 ライフ20
塩の湿地 

「まだ動けないみたいね。それともわざと動かないのかしら?」
「さ〜てね」
アルフレッドは相変わらず手の中で呪符をもてあそんでいる。
「……何を考えてるのか知らないけど、とことんやらせてもらうわ」
青のマナが2つ出るこの状況。本来なら打ち消し呪文を警戒してもいいところだ。だが余裕を見せるその姿に警戒して手が止まれば、それはアルフレッドの望むところとなる。オーディアはそれを知っている。
「《リシャーダの港》!」
《リシャーダの港》
土地というものは全ての呪文書にとって無くてはならない重要なものだ。だが、その価値は時とともに激減してくる。十分な数の土地が揃ってしまえば、あとは不要なものに成り下がってしまう。土地は鮮度が命なのだ。
だがもし、土地そのものにマナを生み出す以外の能力があったとしたら?
序盤にマナを供給し、後半は能力で場に影響を与える。その能力がどんなものであれ、そういった土地は、呪文書のなかにおける土地の鮮度を保つ解決策の1つとなるのだ。
仮面の時代に発見された《リシャーダの港》もそういう土地の1つだった。能力は、『相手の土地1つの力を失わせること』
相手の土地の力を封じ込めてしまう力を持っていた。
この力を使うためには追加で1マナを必要としたが、絶対に使わなければならないと言うわけではない。序盤はマナを生み出し、後半暇になれば能力を起動させればいいのだ。
たった1つ分の土地。だがこれがなかなか侮れない。その土地1つが相手の行動を遅らせる効果は見ため以上にずしりと重い。
目的の土地に対して不当な課税を課す能力を持ったこの土地は、序盤を高速で展開し有利な場を作った後、その有利な場を逆転する呪符を使われることを遅らせたり、相手の序盤の展開を妨害して後半に繋げたり、他の能力を持つ土地が適切なタイミングで能力を使うのを防いだり…と、実に小回りが利き、多くの符術士に重宝がられ、そのために市場でこの呪符を手に入れることそれ自体が困難な状態だった。
どんな呪文書にも入れるだけの価値のある特殊地形が、安値で取引されるわけがない。結果、この土地は仮面の時代における最高級の呪符のうちのひとつとなった。

「この港の税の取り立ては厳しいわよ?」
狙いをアルフレッドの《島》に定め、《リシャーダの港》の能力を起動させる。
「ちっ」
《塩の湿地》が力を失う前、舌打ちしながらも青のマナを引き出した。
ぼんやりと青く光るものがアルフレッドの周りに集まり、使われるタイミングを待っている。
「そんなことをしても、そのマナには使い道がないってことくらいわかるわよ。…ブラストダーム!」
「くっ」
オーディアが《ブラストダーム》に攻撃を命じる。と同時にアルフレッドの周りで渦を巻いていたマナが行き場を失ってアルフレット本人を焼いた。
マナはいつまでも使わずに残しておけるものではない。使い切れずに残ってしまったマナは、捨てることもできずに術者の周りに漂い、維持の限界とともに術者本人の体を焼く。マナバーンと呼ばれる現象だ。
アルフレッドにもこうなることはわかっていた。だが、たとえ少しのダメージを受けてしまっても、同時に使える2つの青マナを手放すわけにはいかなかった。ブラフだとしても、そうでなくても、一瞬でも長く相手に脅威を感じさせなければならない…と、当のアルフレッドがどう考えていたのかどうかはわからないが。
《ブラストダーム》がその巨体をアルフレッドの上に踊らせる。巨大な腕を振り下ろし、爪で一気に切り飛ばすつもりのようだった。
「ちぃっ」
だがアルフは一歩だけ前に進み打点をずらすと、右足を地面に踏みとどまらせ、顔の前に振り上げてガードした左腕の一本でそれを受け止める。
どぐっ…という鈍い音とともに、右足が地面にめり込む。
「…っ!!」
叩き付けられた左腕から全身に衝撃が走る。並の人間なら吹き飛ばされるか鋭い爪で切り裂かれるか、そのまま叩きつぶされるかするところだ。だがアルフレッドはその体勢のまま左腕一本で押し返した。腕にかかる力の向きをふわりと変えてやると、バランスを保つため、ブラストダームは、ずん、という音とともに足を地面におろした。

「まだ終わってないわよ!」
ダームが元の場所に立ち帰るその向こうで、残った土地と極楽鳥から引き出したマナを使い、オーディアは呪符を完成させていた。
「遙かなる天より、降り注げ、《石の雨》!」
マナの力を蓄えたままの《塩の湿地》に、巨大な石の塊が、それこそ雨のように降り注ぐ。水しぶきが空を覆ったが、それが虹を描くことはとうとう無かった。

「えげつない攻めだな」
「普通のファイアーズだと思ってたのかしら? おあいにく様ね」
オーディア自身、今使っている呪文書が他のファイアーズと比べて強いとか弱いとか言うつもりはない。もちろん劣っているとは考えない。素直な動きをするファイアーズと違い、相手の動きに干渉する──土地を破壊する──分だけ扱いが難しくなるが、それと同じ分だけ、もしくはそれ以上に融通の利く構成になっているはずだ。もしこの考えが違っていたとしても、少なくともこれはオーディアが自信を持って愛用している呪文書である。それに今回は負けるわけには行かない理由もある。そんな中で持ち出してきた呪文書が弱いわけはなかった。

オーディア 手札2枚 ライフ19
森 森 カープルーザンの森 リシャーダの港
極楽鳥 ブラストダーム(2)
アルフレッド 手札7枚 ライフ14

「終了」
完全にやることが無くなった。新しく《地底の大河》を場に出したが、到底間に合うものではない。

オーディア 手札2枚 ライフ19
森 森 カープルーザンの森 リシャーダの港
極楽鳥 ブラストダーム(2)
アルフレッド 手札7枚 ライフ14
 地底の大河

「投了しないの?」
「どんなときも最後までやる主義だ」
「ふーん… これでも?」
そういって場に出してきたのは、
「《黄塵地帯》かよ」
《黄塵地帯》
これも仮面の時代に発見された特殊地形のうちの1つだ。能力は、『自分の土地を1つ生け贄に捧げる代償として、相手の特殊地形を1つ破壊する』というもの。この能力を使うためには生け贄にする土地の他に多量のマナが必要となる。だが、《リシャーダの港》と同じように、必ず使わなければならないと言うわけではない。この能力を使い続けている間はほとんど何も場に送り出すことができないことになるが、場の状況で優位を築いている場合、相手の土地を破壊し続けることによってその優位を永遠のものとすることができるようになる。特に相手の土地が特殊地形である場合には効果覿面。そしてそれはアルフレッドにとって、これでもかと言うほどトドメを刺す力を持った特殊地形だと言うことだった。

「くくっ くくくくっ ハハハハハハ!」
うめくように声を出したかと思うと突然、何かに取り憑かれたように笑い出した。そしてにやりと顔を歪める。
「やるじゃねぇか。そうこなくっちゃよ」
アルフレッドの目に光が、口元には嘲る笑みが戻る。ぐいと腕まくりをすると、こきこきと肩と首を回した。
遅ればせながら、戦闘準備を整えたのだ。
「さすが、多少見込んだだけはあるゼ。なるほどなるほど、多少は楽しめそうだ」
「多少? 冗談じゃないわ。 イヤって言うほど思い知らせてあげる」
呪符のにぎっていない右手でアルフレッドを指さす。左肩に止まっていた極楽鳥が羽ばたき、二人の頭上を飛び回った。
(大丈夫。いつも通りあたしはやれるわ)
その仕草に、自分に少しずつ「らしさ」が戻ってきたのをオーディアは感じていた。

オーディア 手札1枚 ライフ19
森 森 カープルーザンの森 リシャーダの港 黄塵地帯
極楽鳥 ブラストダーム(2)
アルフレッド 手札7枚 ライフ14
島 地底の大河

 

 


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