ぱんっ
呪文書に呪符を収め、閉じる。決闘のためにできていた空間が戻り、元通りのドーム状の部屋になる。
「なかなか楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ良い勉強になりました」
今回のことは本当に勉強になった。というよりも、今回の呪文書については考えなければならないことが山積みで、一体どこから手をつけて良いかわからないほどである。
最後の1戦は何とか勝たせてもらったが、それは全くの偶然と言っていい。本来ならまるで相手にならないはずだ。それはジェネシスの呪文書が特別強いからと言うわけではないだろう。カルマの呪文書が弱すぎるのである。
「もっと勉強しないとダメですね」
自分はもっともっと勉強しなければならない。呪文書、いや、呪符と呪符のつながりや流れの考え方について、1から見直さなければならないと、カルマは考えていた。
「それなら、呪文書の中身を検討しあってみないか?」
ジェネシスの提案に、カルマは1も2も無く同意した。
……。
………。
…………。
「すごい呪文書ですね」
ジェネシスの呪文書の構成をみて、カルマは素直に称賛した。
軽量のクリーチャーを一気に場に展開して場の優位をにぎる。その後《絡みつく鉄線》で相手の動きを封じ込め、そのまま押し切る構成になっている。
高速展開する呪文書は相手が本格的に動き出してしまったあとでは分が悪くなることが多い。つまり相手が動き出す前のわずか数ターンに全力を出しきる必要があるわけだ。ジェネシスの呪文書はその数ターンの間に手札の全てを合理的にプレイできるように構築されている。序盤で手詰まりを起こして動けなくなることはほとんどないだろう。
そして、場の優位を取ったあと、残りの数枚の呪符が、場の状況を逆転しようとする相手を封じ込めるためのバックアップをする。《絡みつく鉄線》で相手を縛り付け、自分だけが優位に展開できる「序盤」を継続させる。相手に何も展開させない。そしてそのわずか数ターンの場のアドバンテージを圧倒的なまでにふくれあがらせて勝利する。ほんの数枚だけ入っている《ハルマゲドン》ですら、遊び心と言ったところか。
相手に対応の選択を迫り、行動の自由を奪うこの呪文書は、自分から行動を起こしているとはいえ、コントロールと呼ばれるものに属するもののうちのひとつだった。
「適当な呪符を選んで、練り上げてもいないんだ。あまり見ないでくれ」
だが、思ったよりもうまくいったためか、ジェネシスの声はまんざらでもなさそうな感じだった。
「それよりも、そっちの呪文書も見せてくれないか?」
「え…」
「自分ばかり見るのはずるいんじゃないか? さぁ」
そういって手を出してくるジェネシスに、カルマは渋々、自分の呪文書を手渡した。
……。
………。
…………。
「……?」
一枚一枚を見ていくジェネシスの眉根が微妙に歪む。
最後の一枚までめくり終えたとき、ジェネシスはため息をつきながら、ジェネシスはぽとりと言った。
「この呪文書は…弱くないか?」
ぴきっ
このとき確実に、カルマのまわりの空気は凍り付いた。時が止まったと言い換えてもいい。
ジェネシスはもう一度呪文書をめくりだした。今度は深く検討を加えるように。
「この呪文書でやりたいことはなんだい?」
「それは…」
だが、カルマが口を開くよりも早く、ジェネシスが言葉を紡ぐ。
「カウンター… ハンデス…、 クリーチャー除去…」
ぺらり。
「おっと。暗黒の儀式も入ってるね。相手よりも早く展開したい…あとは…こんなところかな」
パタン。
「だけどね、カルマ君。 これだけいろいろしたいことを詰め込んで、結果は、俺のたった1つの「相手よりも先に殴り倒したい」ということに負けてしまった。 なぜだか、わかるかい?」
「……」
「やりたいことを絞れなかったからだとおもうかい? 確かにやれることを絞ればそれだけ呪文書の動きは明確になる。だから、割と簡単に強くもなるだろうな」
「……」
「ああ、誤解されないように言っておくが、俺はそういう「あれこれしたい」という呪文書は嫌いじゃない。それが理由で弱いとも思わない。 問題は…そう。 君だよ、カルマ君」
「?」
「これもしたい、あれもしたい…。大いに結構。だが、本当に強い「あれこれしたい」呪文書というのは、本当は、これもできる、あれもできる、というように昇華できるはずなんだ。作り手の意思といってもいい。『勝つためにこれもしたい。あれもしたい。』っていうのと、『これもできる。あれもできる。だから勝てる』っていうのは、同じように見えても全然違うものなんだよ」
「……」
「もしかして君は、あれやこれやと考えている最中に、大前提の「戦って勝つ」という事を忘れてしまったんじゃないかい? 魅力的なカード達を目の前にして…。」
「……」
「厳しいことをいうようだけど、もしその通りなら…きみは、「決闘者」として大きなものが無意識のうちにかけているという事になる。遊びで作った呪文書を使って仲間内で遊ぶのならともかく、決闘者として決闘する場合、それは大きなネックになるし…」
「……」
「なにより、相手に対して酷く失礼になるとは思わないか?」
「……」
カルマは静かに言葉をかみしめていた。
戦って勝つ、その最も基本的な大前提を、今回の呪文書を作るとき、常に頭の中においていただろうか?
呪文書は強さだけが全てではない。カルマもその考えには常に賛同してきた。だが、相手と十分に戦えるだけの強さを持たせることを考えの中にいれて作っていたか?
決闘とは符術士どうしが自分の力を出し合って戦い、その結果としてお互いを高めあうために存在するものだ。ならば、その決闘に耐えうる強さを持った呪文書を作らなければならないと、意識して呪文書を練り込んでいたか?
答えは全てにNOだった。
──だから言っただろ、この呪文書は弱えってよぉ…
アルフレッドがどういうつもりで言ったのか、カルマにはその真意はわからない。
だが、そんなことは問題ではない。
カルマが自分でどう思うか…だ。
「また…」
「ん?」
「またもう一度戦ってくれますか。次は、『決闘者』として」
「もちろん」
固くかわした握手は、いつも以上にちからが入っていた。