カルマとジェネシスは予備の呪文書を開き、メインの呪文書と呪符の入れ替えを行っていた。
予備の呪文書とは、呪文書の巻末に添えられた15枚の呪符のことである。
呪文書には相性というものが存在する。ある呪文書には簡単に勝てるのに、別の呪文書にはころりと負けてしまう。そういうことが往々にしてあるのだ。どんなに良くできた呪文書であっても全ての呪文書に勝てるように作り上げることはできない。
そこで、メインの呪文書の他に予備の呪文書を作り、対戦と対戦の合間に呪符同士を入れ替える。予備の呪文書には相性の悪い呪文書に対抗する呪符を加えて弱点を保管したり、自分の呪文書の力をさらに高める呪符を盛り込んでおくのが普通である。ときには予備の呪文書のほとんどを使い、呪文書の内容そのものを大きく変えてしまうこともあるが、これはまれな例だ。
とにもかくにも、呪文書同士には相性が存在する。それを補完するための予備の呪文書は符術士にとって大きな意味をもっていた。中にはこの予備を用意しない符術士もいるようだが、符術士の本当の実力は予備の呪文書も含めて評価されるべきものだ。もしも予備を用意していた符術士と用意していなかった符術士が対戦をした場合、予備を使わなかった符術士は数回のうちに自分の怠慢さを後悔するはめになるだろう。
特定の呪符が特定の呪文書の息の根を止めるほどの効果を持っている場合もある。予備の呪文書は対戦する相手を想定して用意するため、いっそうその傾向が大きい。
たった1枚の呪符が大きな意味を持つ。
(これとこれ。それとこれ…)
相手の呪文書の構成の大部分は見えていた。それを頭に置いて予備の呪文書から数枚を加え、メインの呪文書から同じ枚数だけ抜く。
メインの呪文書の中身を確認して、作業は終了。
(……)
カルマは呪文書を閉じる前に、盛り込んだ数枚の呪符と、とある呪符を眺めていた。曰く、《吸血の教示者》である。
いつでも好きなときに好きな呪符を引いてこれるこの呪符は、呪文書の中の好きな呪符に化ける。わずか数枚だけ加えた予備の呪符もこの呪符がある限りいつでも持ってこれるということだ。《吸血の教示者》がその使い手に明かす未来は予備の呪文書を用いたときにいっそう力を持ち始める。
──教示者使うならよ、この手の色狙い打ちの呪符も効果的なんだゼ──
また、あの言葉。
アルフレッドの助言が頭の中から離れなかった。
カルマは呪文書から呪符を引き込み、その内容を確認する。かぶりを振ると引き込んだ呪符を呪文書に加え、もう一度引き直した。
現在の盟約では、最初に引いた手札が気に入らなければその手札呪文書に加えた上で、もう一度引き直すということができる。ただしそれをすると最初の手札が1枚ずつ少なくなってしまう。できることなら避けたいことだったが、それをしなければならないほど悪い手札を引いてしまっている場合もある。
特に今回は相手の呪文書構成がわかっている。その速度についていけないような手札なら、引き直しを行った方がいい。
「大丈夫かい?」
声をかけてくるジェネシスに、何とかなりますよと笑って答えておく。
| カルマ |
手札6枚 |
ライフ20 |
| 無し |
| ジェネシス |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
「古の盟約に従い、先攻で行かせてもらいます」
1枚少ない手札を広げ、カルマはそれでも次々と呪符を使い始めた
「沼気よどむ《沼》よ我が下へ! そして、我は重ねる《暗黒の儀式》」
先手、それも最初からの速攻がかけられるのは黒に《暗黒の儀式》があればこそだった。
この呪符が最初の手札に2枚3枚と集まれば、最初から大呪文を行使する事が可能で、相手が少しでも対応に遅れればそのまま押し切ることも不可能ではない。特に黒の特徴である手札破壊と組み合わせた場合、対応手段そのものをはぎ取ってしまうためこの傾向がますます強くなる。黒の力を特徴づける最も基本的な呪符のうちの1枚だった。
だが、どうやら次の基本とされる7冊目の呪符集には採録されないことが決まっているらしい。
(だからこれが使えるのも、もうしばらくの間だけなんだよな)
増幅された黒マナを操りながら、カルマはそんなことを考えていた。
「心まで凍らせよ、《冷たい亡霊》」
ぼろぼろのローブを目深にかぶった男が、カルマの前に現れる。先ほどの決闘でもカルマが呼び出したクリーチャーだ。
力は弱い。だがその手に触れたものの心を冷たく凍り付かせるその能力は、ときには力以上の効果を持っていることを二人とも知っていた。
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 亡霊 |
| ジェネシス |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
「《森》よ。新緑を芽吹かせよ。そして現れよ。荒々しき森の同胞《ラノワールのエルフ》」
足下に森を広げ、エルフを呼び出す。ジェネシスも負けずにマナを加速させていた。
黒に暗黒の儀式があるように、緑にはエルフ達がいた。
緑の高速展開はこのエルフから始まることが多い。これを最初に呼び出せるかどうかで緑の速度は驚くほどの違いを見せる。
「黒の速攻に対抗するにはこれくらいしないとな」
ジェネシスの手ににぎられているいまだ使われていない呪符が、その役目を待っていた。
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 亡霊 |
| ジェネシス |
手札6枚 |
ライフ20 |
| 森 ラノ |
呪符を引き、場と手札を眺める。
(さぁ、どう攻める──)
新しく1枚増えた手札を眺め、場を眺め、今後の展開を想定する。
「……亡霊よ。相手の心を凍らせてこい」
ゆっくりと攻撃を命令する。
亡霊はゆらりとした動きでジェネシスに迫る。
一瞬、エルフがジェネシスを守ろうとするが、ジェネシスはそれを手で制し、自らその攻撃を受けた。
手札から《土地譲渡》が1枚、ぽろりとこぼれ落ちる。
「(それなら、こっちの土地を出しておくかな……)
水の流れに浮かぶ《島》よ、我が下へ」
普通、土地は攻撃の前に置かれるものである。なぜなら、マナが増えることによって相手よりも多くの簡易呪文を使えるからである。今回のようにマナの種類を増やすような場合には使える簡易呪文そのものの種類を増やすことにもなる。
簡易呪文の応酬の結果はそのまま戦闘の結果に跳ね返ってくる。それはたいていの場合、決闘の流れすら決定づける、重要なものだ。だから生み出せるマナの数を増やす作業は戦闘の前に行われるのである。
ところが今回、カルマは攻撃をしてから土地をおいた。それはなぜか──。
さっきの亡霊の攻撃をエルフがブロックにきていれば、カルマは沼からの黒マナを用いて亡霊を再生させ、エルフとの相打ちを回避していただろう。そうなれば土地をおいたとしてもわずか1つのマナしか生み出すことはできない。1つのマナで生み出せる呪符がどれだけカルマの呪文書に含まれているかわからないが、そう多くはないだろう。
だが、それでも置くしかない土地ならばおいていたはずである。となれば持っていた土地は《島》1種類だけでなく、他のものも持っていたはずである。その土地が《沼》という可能性も無いわけではないが、この可能性は、手札に《血の復讐》をにぎっていた場合ぐらいしか考えられない。
ここでさっきの決闘の最中に見せた土地を思い出す必要がある。つまりは《塩の湿地》。
1点のマナで使える呪符が無く、亡霊のために再生のマナがどうなるかによって置くべき土地を変えたいから攻撃の後に土地を置く。この土地を持っていると考えるなら、話のつじつまは合う。
さらに考えを巡らせれば、そして1つのマナで使いたい呪符がないのだから、2つのマナで使いたい呪符がないならば、この手番でも《塩の湿地》をおいていたはずである。そうしておかなければ、さらに次のカルマの手番以降で《塩の湿地》を置くことになり、土地の展開の妨げになる。逆に言えば、『2つのマナで使いたい呪符を持っている』ということだ。しかもそれは青のマナを含んだ戦闘中に使う呪符では無い可能性が高い。つまりはそのマナで使える打ち消し呪文は持っていない。そんな呪符を持っているなら、戦闘の前に島をおくだろう。ならばその呪符は何か。
もしくはさらにその次の手番で《対抗呪文》を打つための準備で《島》をおいたのか… いやいや。そうならば《塩の湿地》を先においておかなければ打つことができない。さらに手札に《島》を持っている可能性も少なくはないが、そうならば戦闘前に《島》を置かないということは考えられない。
…………。
……。
ただ土地をおくという行動1つで、いろいろなことが考えられる。
普通とは違う行動を見せた部分は、全てその手がかりとなる。
それによって相手の手札の一部、ときにはその全てを推理できる場合もあるのだ。
隠れた手札を知ることは、見ため以上の優位をもたらしてくれる。このこと知らない符術士はあまりいないのだが、いつもとは違う自分の行動が相手に情報を与えてしまうことを、つまりは自分自身の首を絞めている場合があることを理解している符術士は実は数少ない。
カルマも、そういう意味ではまだまだ未熟だった。
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 島 亡霊 |
| ジェネシス |
手札5枚 |
ライフ19 |
| 森 ラノ |
「《森》よ、新緑を芽吹かせよ」
ジェネシスはカルマの土地にちらりと目をやる。カルマの異常行動(細かくても異常には違いない)に気が付いているのかいないのか、その様子から伺い知ることはできなかったが、何かを考えている様子ではあった。
場の状況はカルマが有利だ。おまけに冷たい亡霊の存在をこのままにしておけば手の呪符すらもはぎ取られてしまう。動かないわけにはいかないはずだった。
「《キマイラ像》」
エルフと2つの森からマナをを引き出し、大きな亀のような形をした像を作り出す。
《キマイラ像》
見た目はただの大きな像である。そして何もしなければただそれだけだ。
だが、この亀の形をした像は、術者の操る土地の力を全て解放することで、しばらくの間クリーチャーへと変化する事が可能だった。必要なマナと比べてみてもその力は遜色がない。
さらに言えば、しばらくの間しかクリーチャーの形を取っていないため、儀式呪文でやられる可能性が低い。全体除去呪文の多くは儀式呪文であり、それを回避できる点は高く評価できる。
無差別にクリーチャーを除去した後に、このキマイラ像がのっそりと立ち上がり攻めてきたなら、それを防ぐのは容易ではない。
ジェネシスの手番を終了させるとき、カルマはそのスキを狙って《蓄積した知識》を使う。
戦闘で使うことのない、青マナを含んだ、2マナの呪符 …である。
1つ1つの行動が、お互いの手札の情報を明かしているという事実を、この二人は理解しているのだろうか。確かに、隠そうと思っていても隠せるものではない。どうしても仕方のないという部分の方が多いこともまた事実。
だが、それに気がつけるか気がつけないか。その点が符術士本来の力の差としてあらわれる。
例えば、カルマの土地の置き方。
例えば、ジェネシスの《土地譲渡》捨て(亡霊の攻撃)
例えば、ジェネシスの2ターン目にエルフではなく《キマイラ像》の召喚。
例えば……。
土地の置き方、呪符の使い方、マナの残し方、いつもとは違う行動、迷い、目の動き、呼吸…。
目に見えること、見えないこと、全てが相手を想像する手がかりとなるのだが──。
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 島 亡霊 |
| ジェネシス |
手札4枚 |
ライフ19 |
| 森 森 ラノ 像 |
呪文書から1枚呪符を引き、カルマはもう《塩の湿地》を支配下におき、自分の手番を終了させた。
たったこれだけのことから、また1つ、情報が漏れる──
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 島 塩湿地 亡霊 |
| ジェネシス |
手札4枚 |
ライフ19 |
| 森 森 ラノ 像 |
「攻撃にも来ない」
シャッ
呪符を引く。
「青のマナを2つ揃えることもしない」
パッ
呪符を広げる。
「対抗呪文も、除去呪文も、持ってないようだな」
ジェネシスに言われて、カルマの顔に緊張が走る。
「それとも、その土地は今引いたのかい?」
森2つからマナを引き出し、手札から《土地譲渡》を使う。
「驚いてるようだけど、これくらいはただ見てるだけでもわかるもんだよ」
さらに《森》を展開し、2つの《力の印章》を作り出した。
「終了」
流れるままに呪符を展開したジェネシス。
その動きに不自然さはなかったように見えたが…。
《土地譲渡》をわざわざマナを払いながらプレイ。さらにはエルフも展開せずに《力の印章》を2つも作り出す異常事態。
だが、ジェネシスに見透かされた手札を前にして呆然としていたカルマに、ジェネシスのこの行動から何かを読みとることができていたのだろうか。
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ20 |
| 沼 島 塩湿地 亡霊 |
| ジェネシス |
手札2枚 |
ライフ19 |
| 森 森 森 ラノ 像 力印章 力印章 |
新たな呪符を手札に加える。
「死を育みし《塩の湿地》よ」
新しくもう一つの《塩の湿地》を支配下に加えた。
「(バレてるなら、新しい呪符を引くだけだ)
冷たい亡霊よ、《潜伏工作員のローブ》を纏え!」
青と黒のまだらもように彩られたあやしげなローブが、亡霊を覆い隠す。見ているだけで何か恐ろしい感覚にとらわれ、近寄りにくい。支配者である符術士ですらこうなのだから、作り出されたクリーチャー達がこのローブをまとった物を止めるためには恐怖を克服した黒のクリーチャーか、心を持たないアーティファクトクリーチャーで無ければ無理だった。
そして、このローブがもたらす恩恵はこれだけではなかった。
ローブをまとったクリーチャーが攻撃で対戦相手に傷を負わせた場合、それを支配している符術士は新たな呪符を得ることができるのである。
「冷たい亡霊よ、今こそその力を示せ」
亡霊に攻撃を命ずる。
「《キマイラ像》起動!」
ジェネシスは全ての土地から力を解放させることで、キマイラ像をクリーチャー化させる。とは言っても、今は既に全部の土地の力を使ってしまっていた状態である。何もペナルティは存在しない。
「冷たい亡霊から俺を守れ」
のそりと起きあがり、亡霊との間に割り込もうとする。キマイラ像は心を持たないアーティファクトクリーチャー。ローブの模様におそれを抱くことはない。
このままではキマイラ像に阻まれ、亡霊の攻撃はジェネシスまでは届かないはずだった。だが、
「(かかった!) それはさせません。
我、ここに血を捧げ、その力の源とする。命あるものよ、我は其を奪いしもの。再び立ち上がること能わず。汝《殺し》を受けたとしるべし!」
キマイラ像が割り込むより早く、カルマの放った呪符によって、像はその動きを止める。
まだらもようのローブを引きずり、白い手だけを覗かせながら、亡霊は再びジェネシスに迫り、
その薄く伸びた爪で、軽くジェネシスの体をひっかいた。
「くっ」
ジェネシスの手札から《森》がこぼれ落ちる。と同時にカルマは新しい呪符を手に入れていた。
「終了です」
流した血の量と、手に入れた呪符を見比べ、だが、ローブをまとった亡霊を見て、カルマは満足した顔つきで手番を終了させた。
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ16 |
| 沼 島 塩湿地 塩湿地 亡霊(潜伏) |
| ジェネシス |
手札1枚 |
ライフ18 |
| 森 森 森 ラノ 力印章 力印章 |
「もう勝った気でいるのか?」
相手よりも多い手札と有利な場。あとは相手の呪文を打ち消しているだけでいい。
青を使う者にとっての必勝パターンはできていた。カルマの顔に安堵の色が見えるのも仕方のないことといえた。
だが、この一瞬、マナの残っていないこの一瞬だけは話は別だ。
「さっきの《殺し》は引いてすぐ使った呪符だろう?」
2枚の手札を片手に持ち、もう片方の手の爪を噛みながら、ジェネシスは何かを考えていた。
「キマイラ像を除去しなかった時があるんだから、明らかだ。もう手には除去手段はなさそうだ」
きちんとした判断をしていれば相手の手に残っている呪符はある程度知られてしまう。
もちろん、さっき亡霊がもたらした追加の呪符が何であるかは知れない。それが除去呪文で無いという確証はない。
「…しかしまぁ、思い切りが肝心ともいうな」
このまま手をこまねいて見ていても状況がよくなるわけでもない。
意を決し、ジェネシスはラノワールのエルフに、単身攻撃を命じた。
カルマの手に、除去呪文はない。キマイラ像の方が遙かに強敵で、エルフ1匹などとるに足らない相手に見えたからである。
だが、ジェネシスの呪文書は、場にいるクリーチャーを選ばなかった。
「ラノワールのエルフよ、力の印章を掲げて力を示せ!
さらに! 《巨大化》せよ、ラノワールのエルフ」
緑色の石版を2つとも割り、その結晶化された力がラノワールのエルフに注ぎ込まれる。
その力は森の巨大クリーチャーとも渡り合えるほどになっていた。
凶暴な力を持ったエルフがさらには巨大化し、恐ろしいほどの力を持ち始める。
今なら木々をなぎ倒してもその歩みをとめることはできなかっただろう。
だが、それでもカルマの生命力を削りきり、たたき伏せるには足りない。
カルマもジェネシスもそれはわかっていた。
だから──
「もちろん、まだ続きがある」
ジェネシスの手に残る最後の呪符。惜しげもなくそれを使い切る。
「狩る者よ、覚悟せよ。狩られる者が時として見せる、獰猛なる《野生の力》を」
魔術にはいろいろな形式がある。
それを使うためにマナを支払い様々な要件をクリアして、効果を発動させる。
魔術の効果を高めるには一般に2つの方法がある。
まず一つ目に、純粋に多くの魔力を注ぎ込むこと。一般的に必要とするマナ多い魔術はそれだけ効果が大きいものだ。
だが、同じマナを使って効果を高めようとするなら何をすればよいのか?マナではない別の代償を払うならば、一体何を支払えばよいと言うのか?
答えは「危険性(リスク)の増加」である。
仮面の時代。リスティックという総称で呼ばれる魔術が発見・開発された。リスティック魔術は、同じ効果を持った魔術に比べ、手続き方法やマナの必要量などが少ないという利点を持っていた。だが、リスティック魔術は別の誰かがマナを使って邪魔をすることで、効果が著しく減じてしまうという危険性も同時に持っていたのである。
《野生の力》
相手に2つほどのマナを使われるだけでリスティック(邪魔)されてしまう、簡易増強呪文。リスティックされてしまえばほんのわずかしか増強できないという危険性を持っているが、逆にリスティックされなければその効果は爆発的だ。
ラノワールのエルフの力は今や、どんな強力なクリーチャーすら、──例えその相手が海の魔物《リヴァイアサン》や、巨大な《ファイレシアン・ドレッドノート》などだったとしても、叩きつぶすことができるほどになっていた。
普通ではあり得ない大きさ──。それが今目の前にある。
──ズンッ
カルマの目の前に山のような大きさのエルフが立ちふさがる。
両足の間の向こうに腕組みをしたジェネシスがこちらを見ているのが伺えた。
(耐えられるのか?)
横殴りにたたき付けてくるエルフの腕。両手で体を庇いながらそれを受ける。
「っ!!」
あまりの衝撃に声も出ない。
数十メートル以上も吹き飛ばされ、地面で撥ね、滑り、転がり、ようやくととまる。
決闘のための空間内という条件の元でなければ、そのまま絶命してもおかしくなかった。
「立てるかい?」
息ができない。全身をバラバラにされたような感覚を受けるほどの大ダメージ。
いまだかつて一度にこれほどのダメージを受けたことは無かった。
本当なら立ち上がらずに休みたかった。
苦しい。
…苦しい。
……苦しい。
…………しい。
…………………。
カルマの目がそっと閉じられる。
── だから言っただろ、その呪文書は弱ェってよぉ
がすっ!
頭によぎったにやついた顔に、握り拳をを叩き込み、振り払って、カルマはふらふらの体で立ち上がった。
「……だまってみてろ」
自分だけに聞こえるようにつぶやく。
地面にたたき付けた手には、うっすらと血がにじんでいた。
結論から言えば、このあと挽回するだけの力は、カルマには無かったわけではあるが──
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ01 |
| 沼 島 塩湿地 塩湿地 亡霊(潜伏) |
| ジェネシス |
手札0枚 |
ライフ18 |
| 森 森 森 ラノ |