ジェネシスに連れられて、カルマは『じだらく』の奥の部屋にまで来ていた。
扉をくぐり中にはいるとぱたんと音を立てて独りでに扉が閉まる。
「どういうことですか?」
「じきにわかる」
言う暇もあらばこそ。
かくん…
ちょっとした振動があり、カルマは自分の体が軽くなったのを感じた。
「…なっ!?」
「慌てるな、カルマ君。場所を移しているだけだよ」
ジェネシスは部屋の奥の壁を背もたれにして立っている。カルマの慌てぶりがおかしいのか、口のはしがちょっとあがっていた。
そうしているうちに、今度は少しからだが重く感じたあと、部屋の振動は止まった。
「着いたよ」
扉がまた自動で開く。
外をのぞき見る。さっきとは全く違う場所だった。
──いったいどういうことだろう?
悩むカルマの横をジェネシスは通り過ぎた。
「さ、降りて」
振り返って手招きする。 仕方無しにカルマはそれに従った。
扉の外は白い道が一本続いている。そこを進んでいくと広い大きなドーム状の部屋に出た。
床いっぱいに魔法円が描かれたその部屋はさながら何かの儀式に使う部屋の様だった。
「大丈夫。これは疑似空間を作り出すためのものでね。害はないよ」
入り口で立ちつくし、入り込むのをためらっていると、ジェネシスはそう声をかけた。
「入ってきてくれないか。そこだとまだ遠い」
少し悩んだあと、カルマは魔法円の中に入り込んだ。
「これでいいですか?」
「結構だ。それでは… … … …」
ジェネシスはなにやらつぶやいて魔法円の中心に向かって手を差し出した。とたん、まわりの景色が一変する。
無粋な石の壁は無くなり、辺り一面が荒野に変化する。吹き抜ける風すらも感じられた。
「呪文書は持ってきてるかな?」
「それは持ってますが… まさかここで?」
「そのための疑似空間だよ。さて…」
ジェネシスは自分の呪文書を取り出すとぱらぱらと中身を確認した。
「これでいくか」
その顔はいたずらを考えている子供の顔に似ていた。
「さぁ。カルマ君。君も自分の呪文書を出して。 1つ手合わせと行こうじゃないか」
ぱたん、と呪文書を閉じる。
言われてカルマも呪文書を取り出した。真新しいカバーのそれは船の中で頭をひねっていたあの呪文書だった。
──この呪文書、弱くねぇ?
頭の中に、なぜかあのときのアルフレッドの声が聞こえてきた。
もちろんあれからさらに組み直しをした。アルフレッドに指摘された部分も、『苦手とする特定の色をねらい打ちする呪符を呪文書に盛り込む』などという、納得できない考え方には反発していたが、それ以外の大部分は意見を採り入れた。
取り出した呪文書をぎゅっと握りしめる。
「(もう弱いなんて言わせない)」
他に今まで使ってきた愛用の呪文書もあった。だが、この思いがカルマにこの真新しい呪文書を使うことを選択させた。
「決まったかい?」
カルマはうなずくとゆっくりとジェネシスと対峙する。
「どうぞ」
「それじゃぁ行くよ」
キーン
コインをはじく。
「Head or Tails ?」
「Tails」
ぱしっ
手の甲で受け止めたそれは威風堂々とした獅子の咆吼が描かれていた。
| ジェネシス |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
| カルマ |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
「先攻で行かせてもらうよ」
お互いに呪文書から7枚引き、それが決闘に耐える十分な物だと確認すると、ジェネシスは即座に行動を起こした。
「《森》よ、新緑を芽吹かせよ」
一面の荒野、何もない場所。ジェネシスの足下からその背後に緑が広がっていく。
「導かれよ、荒々しき森の同胞、《ラノワールのエルフ》」
生い茂る森の中から現れた一体のエルフがジェネシスの傍らに控える。
力こそ大したことはないが、このエルフには森1つ分から生み出されるマナと同等の緑マナを生み出す力を持っている。マナを生み出すエルフは数多いが、このエルフほど素早くその役目を全うできるものはいない。呪われたラノワールの森の暮らしで鍛えられた結果だが、そのおかげでこの荒々しい生き物はほかのエルフ達からは受け入れられなくなっているほどなのだ。
──小枝を踏み折れば、骨を折ってあがないとする
ラノワールのエルフの侵入者に対する処罰にはこういった方法すらとられている。
それほどまでに気性の荒いエルフであるにもかかわらず、数多くのウィザード達に使役されているという事実は、このエルフの力が有用であることを如実に物語っているに他ならない。
| ジェネシス |
手札5枚 |
ライフ20 |
| 森 ラノ |
| カルマ |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 無し |
カルマは呪符を1枚引き、手札と場の状況をちらりと眺めた。
(緑か…)
緑の展開速度には驚異的なものがある。エルフを筆頭にマナを加速し、他の色よりも数段大きいクリーチャーをさらに数段早く呼び出すのが常套手段だ。ゆっくりとやっていてはあっという間に場の支配を持って行かれて、押し切られてしまうだろう。それは過去に何度も味わっている。
「《塩の湿地》」
一枚の呪符を手に取り、支配する。カルマの足下にどろどろとした湿地が広がる。普通の湿地ならばそこは多くの生き物が生息する場所になるものだ。だが塩を多量に含んだこの湿地はそれらの繁栄は望めない。よどんだ水の中で繁栄するのは死だけなのだ。
この土地は場に出した瞬間からマナを生み出すことはできない。ただし次からは何の不利益をもたらさずに青と黒のどちらのマナでも生み出すことができる。
カルマの手札に1つのマナで使える呪符はなかった。それならば次の自分の手番からはいつもよりも有利になれるこの土地の支配を優先したのもうなずける。
今までいつもカルマの呪文書の先陣をきって使用されてきた《強迫》は、今の盟約では使うことが許されていない呪符であり、最初にこれを叩き込んで相手の思惑を破壊することはできなかった。
(だけど手札破壊をあきらめた訳じゃないぞ)
握りしめたカルマの手札にはその思惑がしっかりと盛り込まれていた。
| ジェネシス |
手札5枚 |
ライフ20 |
| 森 ラノ |
| カルマ |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 塩の湿地 |
ジェネシスが新たに呪符を引く。
「《森》よ」
そしてためらうことなく森の深みを増していく。
ここから相手が対応できないほどの大きなクリーチャーを連続で召喚していく。それが緑の戦略の1つ…なのだが…
「その手に新緑を抱き、現れよ《クウィリーオンの歩哨》」
ジェネシスの傍らに別のエルフが控える。
このエルフはラノワールのエルフほど常にマナを生み出すということはできないが、1つ分だけ好きなマナを抱いて場に呼び出される。つまり──
「さらに現れよ《クウィリーオンの歩哨》 抱く力は緑」
生み出されたマナを有効に使うことができるならば、このエルフは実質1点分しかマナを消費せずに呼び出すことが可能になるのだ。
「力を結晶化させ、その印と成せ 《力の印章》」
全てのマナを使い切り、ジェネシスはようやく呪文の詠唱をやめた。
緑の戦略は大きなクリーチャーを呼び出すだけではない。小さなクリーチャーの群れを呼び出し、相手が体勢を整える前に蹂躙してしまうことも可能なのだ。
こうして相手の場に出てきたクリーチャーを見る限りどうやら後者のようである。
「どうだい? ちょっと遊びで作ってみた呪文書だが、いい動きをするだろう?」
得意げに笑ってみせる。
遊びで作ってみた? 冗談ではない。
わずか2回の手番で呪符を残り2枚まで使い切るその速度は脅威以外のなにものでもなかった。
| ジェネシス |
手札2枚 |
ライフ20 |
| 森 森 ラノ Q歩哨 Q歩哨 力の印章 |
| カルマ |
手札7枚 |
ライフ20 |
| 塩の湿地 |
乾ききっていた湿地が色を取り戻す。ようやくカルマもマナを使える状態になった。
「沼気よどむ《沼》よ」
最も基本的なマナ源とされる土地──基本地形と呼ばれる5種の土地はマナを生み出す以外に何も特別なことはできない。だが、その確固たるマナ源は創世記の昔から今に至るまで呪文書の根底を成す重要な物として位置づけられてきた。土地がなければ呪符を操るためのマナを得ることはできないのである。時間がたてば不要となる土地も、こと序盤に限って言うならば他のどんな呪符よりも貴重な、金にも勝る呪符なのである。
得に基本地形は《塩の湿地》とは違い、支配したその瞬間からマナを生み出してくれる。この違いは数種のマナを生み出すことよりも重要度が高い…とは少し言いすぎであるかもしれないが、その1マナの遅れが、1手の遅れが、決闘の流れを決定づける重要な意味を持っている場合もある。得に最序盤は。
とにかく、カルマは塩の湿地とは違う新しい土地を支配した。
しかしその間にジェネシスは場の状態を強烈に整えてきている。はっきり言って時間がない。
ここで動くことができなければカルマに勝ち目は無いだろう。それに…
「エルフウィニー…」
ぼそりとつぶやいたカルマの声がジェネシスに届いたかどうか、それはわからない。
それを確かめることもできない。している余裕もない。
場に3体のエルフ。次に攻撃を受ければカルマの生命力の4分の1ほどは削りとられることになる。これは目に見える脅威に限っての話だ。
ここにもう一つの可能性を考える。ジェネシスがエルフを強化する呪符を使ってきた場合だ。
侵略の時代になり、そうできる呪符が見つかっている。
《エルフのチャンピオン》
もしも全てのエルフを強化するこのクリーチャーが召喚され、その後に攻撃を受けたとすれば、ただごとではないダメージを受けるだろう。
とにもかくにも、これ以上好き勝手に動かれるわけにはいかなかった。
「汝、緑の力あればうち捨てよ! 《頭の混乱》」
支配した土地からもマナを引き出し、カルマは最初の呪符を放った。
《頭の混乱》
相手の手札をのぞき込み、思い描いた色の呪符を捨てさせる力を持つこの呪符は、《強迫》ほどではないにしろ手札破壊の先陣を切るには悪くない呪符であった。それに《強迫》にはクリーチャーを捨てさせることはできないが《頭の混乱》にはそれができる。相手の色が予想できるとき、特にクリーチャーを主体とする緑を相手にするときには、この点は評価に値する。
《エルフのチャンピオン》はクリーチャー。これを捨てさせられれば… そう考えていた。
「そんなことをしなくても見せてあげたんだけどね」
「……」
のぞき込んだカルマの動きが止まる。
開かれたその手札には《エルフのチャンピオン》はない。それどころかクリーチャーを生み出す呪符すら存在しなかった。そこにあったのは土地と、さらに土地を得るための《土地譲渡》だけ。仕方無しに《土地譲渡》を捨てさせる。
「当てがはずれたって顔かな?」
既にジェネシスは自分の手札の全てを使い切っていたのである。こうなっては手札破壊呪文は何の意味もない。
歯噛みするカルマをよそに、ジェネシスは悠々と手札をもとに戻した。
| ジェネシス |
手札1枚 |
ライフ20 |
| 森 森 ラノ Q歩哨 Q歩哨 力の印章 |
| カルマ |
手札6枚 |
ライフ20 |
| 塩の湿地 沼 |
新たな呪符を得ると、ジェネシスはすぐに攻撃を宣言。3対のエルフ全てに命令を下した。
エルフ達はカルマの体に次々と傷を負わせていく。傷そのものの大きさは大したことはなくとも、数が集まれば脅威となる。事実、この攻撃でカルマの生命力の4分の1ほどを削り取られてしまった。
「さて。」
ジェネシスの手札に有効な呪符が無かったのはさっきの《頭の混乱》でわかっている。しかしジェネシスは呪符を手に取るとためらいも無しにそれを使ってくる。当然だ。持っていても捨てさせられるかも知れないのである。
「《エルフの射手》」
強力な弓を持つこのエルフは、その弓を持って敵を射抜く戦い方をする。この射手は敵と対峙したときその相手が近寄る暇さえも与えない。どんな強力な力を持っていても、その牙を、爪を、剣を振るう前に倒れてしまえば何の力も生み出すことはない。
| ジェネシス |
手札1枚 |
ライフ20 |
| 森 森 ラノ Q歩哨 Q歩哨 射手 力の印章 |
| カルマ |
手札6枚 |
ライフ15 |
| 塩の湿地 沼 |
カルマはいつかの少年との対戦を思い出していた。
(あのときも確か、こんな展開だったな…)
緑の驚異的な展開力を見せつけられ、自分の呪文書のその大部分を使うことを許されないまま投了に追い込まれた。それと同じ様なことをまた繰り返している。緑の速さはそのときに十分すぎるほど理解していたつもりだったが、まだまだ甘かったようだった。
(俺も成長しないね…)
一枚増えた手札を眺め、
「水の流れに浮かぶ《島》よ」
できることをできるだけやると決める。
「我は重ねる《暗黒の儀式》。心までも凍らせよ、《冷たい亡霊》」
沼から引き出したマナを増幅させ、カルマはぼろ布のようなフードを目深にかぶった色白の男を呼び出した。音もなく現れたそれは、静かに、その存在をかき消すようにカルマの背後に立つ。
フードのせいでその表情ははっきりとは見て取れない。もしかしたら顔など無いのかも知れなかった。
弱々しい、霞むような存在だが、確かにそこにいる。もしも触れられるのなら──そうしようとは思わないだろうが──その体の冷たさに身を引くはずだ。なぜならばその冷たさは心にまで響き、惑わすからである。
| ジェネシス |
手札1枚 |
ライフ20 |
| 森 森 森 ラノ Q歩哨 Q歩哨 射手 力の印章 |
| カルマ |
手札4枚 |
ライフ15 |
| 塩の湿地 沼 島 亡霊 |
カルマが呼び出したクリーチャー。ジェネシスはそれをつまらなそうに一瞥する。
「そんなクリーチャーで間に合うとは思っていないだろうね?」
間に合うか間に合わないかやってみなければわからない、そういうことは簡単だった。だが言うのはやめる。それほどまでジェネシスの陣営はカルマにプレッシャーを与えている。
「攻撃!」
エルフ達がカルマに迫る。
冷たい亡霊ただ1体だけではその全てを受け止めることはできなかったが、1体のクウィリーオンの歩哨の足を止めることに成功した。
またしてもエルフ達がカルマに軽くはない傷を負わせる。と同時に亡霊と歩哨が手にした杖でお互いに致命傷を与えていた。
「再生!」
「《力の印章》!」
それぞれのクリーチャーを生き残らせるため、カルマは湿地からの黒マナを引き出し亡霊に注ぎ、死の淵からよみがえらせる。ジェネシスは手にした緑色の石版を二つに割ってその効果を歩哨に向けて発動させていた。
亡霊はその姿を今だたもち、歩哨は大きくなった体に見合い生命力でこの危機を乗り切る。
「……残念だよ。もう少し何かあるのか見たかったんだけどね」
攻撃を終了させて一息ついたところでつぶやいたジェネシスの言葉を、カルマはすぐには理解できなかった。
ジェネシスは新たに置いた森からもマナを引き出し、ためらいなく呪符を行使する。
「からみつけ、まとわりつけ、我と汝の形あるものの力を奪い去れ。《からみつく鉄線》」
突如として現れた鉄線がカルマとジェネシスに襲いかかり、四肢の自由を奪う。
「わずかな痛みを防ぐために青マナを使ってしまうのは青使いとしては愚策じゃないのかな?」
確かにその通り…なのだが、完全に場の支配をとられてしまっている以上、新たに振るわれる相手の行動に対応している余裕は全くなかった。だからといって対応しなくてもいいというわけでもないのだが、今回はジェネシスの手札には元もと持っていた森以外には「今引いた1枚」しかないことがわかっていたのである。カルマの選択が悪かったと誰が責められよう。どちらにしろ何とかしないともう数回の後に負けてしまうのは目に見えているのだから。
「そちらの自由は奪った。これでもう抵抗できない」
自らにも絡みついてきた鉄線を、ジェネシスは気にした様子も見せなかった。
| ジェネシス |
手札0枚 |
ライフ20 |
| 森 森 森 ラノ Q歩哨 Q歩哨 射手 鉄線(4) |
| カルマ |
手札4枚 |
ライフ10 |
| 塩の湿地 沼 島 亡霊 |
カルマが全ての力を取り戻す。…と同時にジェネシスの放った鉄線が体を縛り上げ、動きを封じた。
「動けないかい?」
鉄線はジェネシスの体にも絡みついている。しかし今、締め上げられているのはカルマだけだった。
この鉄線を体から引き剥がすためにはその1本について1つ、パーマネントの力を使わなければならない。絡みついている鉄線は4本。今、カルマの場にある物は土地が3つに亡霊が1体。要するに全ての力を絡みとられてしまうことになる。
(どうせ奪われるなら使ってやるよ)
「重ねるたびごとに新たなる知識を。《蓄積した知識》」
墓地に別の蓄積した知識があればより多くの呪符をもたらすこの呪符は、最初はその効果が小さいものの、積み重なることで意外なほど多くの呪符をもたらしてくれる。数多くの青の呪文書の引き増しの呪符として重宝がられていた。
新たに呪符を一枚引き、さらに呪符を行使する
「今ひととき、より深い知識を。《渦巻く知識》」
3枚の呪符を手にする。そして手札の中から2枚を呪文書の一番上に添えた。
「……」
できることが無くなったカルマと、さらには亡霊までもが鉄線に絡みとられる。
「沼気よどむ沼よ」
新たな沼を支配下にくわえ、カルマはゆっくりと手番を終了した。
| ジェネシス |
手札0枚 |
ライフ20 |
| 森 森 森 ラノ Q歩哨 Q歩哨 射手 鉄線(4) |
| カルマ |
手札4枚 |
ライフ10 |
| 塩の湿地 沼 沼 島 亡霊 |
ジェネシスが力を取り戻すと、鉄線は今度はジェネシスに襲いかかった。だが、その威力は幾分削がれているらしい。2つの森とそして鉄線自身の力を使うことで悠々と自らの自由を確保した。
「さぁて。そろそろ終わりにしようか?」
手には緑色の石版が新たに生み出されていた。
ジェネシスが攻撃を命じる。おそらく最後になる攻撃命令を。
身を守るはずの役目を持った亡霊が、今はカルマの身代わりとなり鉄線に絡みとられている。4体のエルフ達がカルマに迫る。
「《力の印章》発動!」
亡霊の横を通り抜け、カルマに襲いかかるその前に、ラノワールのエルフの力を増大させる。もしもこのまま全ての攻撃を受けたならば、カルマは再び立ち上がることはできないだろう。それはもちろんカルマにもわかっていた。
「そこまではさせないっ。
我、血を持って其に報いるものなり。《血の復讐》により、汝、求めたる其の重さを知れ!」
呪符に生命力が吸い取られる感覚。だが、あのまま力を増したエルフに殴られることに比べたらそれはほんのわずかだ。ためらう理由はなかった。
力を増大させるその直前、ラノワールのエルフはがくりと膝をつき、力無く地に倒れる。
それでも残りの3体がためらいもなくカルマの体に傷を負わせていった。
膝をついて傷の痛みに耐えるカルマだが、まだ何とか立ち上がるだけの力は残っていた。
「悪あがきをするね。ま、そうこなきゃこっちとしても面白味がない」
| ジェネシス |
手札0枚 |
ライフ20 |
| 森 森 森 Q歩哨 Q歩哨 射手 鉄線(3) |
| カルマ |
手札3枚 |
ライフ03 |
| 塩の湿地 沼 沼 島 亡霊 |
ひゅるるるるっ
鉄線が今度は3つの力を要求してくる。どうあがいてもこの状況を覆すのは無理な相談だった。
おまけにカルマには未来が見えていた。次の呪符は既に《渦巻く知識》でわかっている。
このままではどうあがいてもこの状況を覆すことはできないのがわかっていたのだ。
だから──
「我が血肉もて、力ある言葉を示せ《吸血の教示者》よ。我が運命の導き手よ」
自らの命を削りながらも未来を変える力を持つこの呪符を行使する。
限界まで生命力を削り取られ、カルマは既に立っていることが不思議なほどに憔悴しきっていた。
《吸血の教示者》
自らの命、初期生命力の10分の1ほどを捧げることで、次に得られる呪符を自らの呪文書の中から選び出すことを可能としてくれる呪文書操作呪文である。これによってもららされる価値は筆舌に値する。何しろ自分の呪文書の中の好きな呪符に化けるのである。そのときそのときで最適な呪符を呪文書の中から選び出して使うことができる能力。この強力さは数多くの呪文書で実証済みである。
──だからって、呪文書に入ってなきゃ持ってこれないけどね。
ぺらぺらと自分の呪文書の中をのぞき込んで、カルマはその一枚一枚を確かめていた。
ここから逆転、そうでなくても互角の状態や体勢の立て直しといったことができる呪符が自分の呪文書の中に入っていないことはわかっていたからである。つまりこれは、できることをやっておこう、何かできることがないか確認しておこう、というただの確認作業とも言えたのである。
(……あれ?)
ふと、カルマの手が止まる。
「何かいいのをみつけたかい?」
「……」
見つけた…というのは正しい。確かに「見つけた」。こういう言い方をするのは、その呪符がカルマの加えた覚えの無い呪符だったからだ。
呪符の効果は以下の通り…。
『全ての緑のクリーチャーを破壊する。それは再生できない』
本来は予備の呪文書の中に入っているはずの呪符がそこにはあった。
あわてて予備の呪文書を開く。メインの呪文書に含まれているはずの呪符を数枚見つける。かわりに、予備の呪文書に入っているはずの呪符が同じ数だけ足りなかった。その数枚は呪文書の中で見つけることができた。
──教示者使うならよ、この手の色狙い打ちの呪符も効果的なんだゼ──
呪文書を練り直している最中、アルフレッドがカルマに言った言葉である。カルマはそこまでしたくないと突っぱねたのであるが…。
(あいつ…勝手にいじったのか…)
《渦巻く知識》で引き込んだ《暗黒の儀式が》手札にある。今ならこれでジェネシスの戦線を壊滅させることが可能だった──
パタン。
呪文書を閉じ、
「投了です」
結局、カルマがそれを使うことはなかった。
ジェネシスは意外そうな顔をしたが、特に何も聞かなかった。
確かにアルフレッドの意見には言うほどの効果がある。そのことは理解できた。だが、だからといって自分が納得しない呪符を使うのはカルマ自身が許せなかったのである。
そう、これでいい。俺は俺の力でこの呪文書を育ててみせる──
多少、意地になっていた。
| ジェネシス |
手札0枚 |
ライフ20 |
| 森 森 森 Q歩哨 Q歩哨 射手 鉄線(3) |
| カルマ |
手札2枚 |
ライフ01 |
| 塩の湿地 沼 沼 島 亡霊 |